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10-2 確かめ合った、僕らの秘密は……【了】(☆)

   恭隆の部屋は、最初に来た日以来ユーヤはずっと入っていなかった。さして変わっていなかったが、改めて見るときれいに整頓されている傍ら、テレビ台の下には段ボールが入っており、中を覗けば、いわゆる大人の玩具が大小さまざま納められていた。 「……使ったこと、あるのですか?」  準備をしている恭隆に、思わず話しかける。ちらりとユーヤの視線にあるものを確認し、「未使用品だよ」と恭隆は答えた。 「使いたい気持ちはあったんだけどね。誰もさせてくれなかったから、わりと年代物なんだ」 「そうなんですね……」  ユーヤが興味津々と言ったように見ていれば、恭隆はクスリと笑い「使ってみる?」と尋ねる。顔を真っ赤にして、ユーヤは声が出なかった。 「冗談だよ。それはまだ早いと思うから」  恭隆が床下の収納から取り出したものは、いつもと変わらない、ボアがついた手枷と首輪、それと容器に入った液体のようなものだった。 「その容器に入っているものは、なんですか?」 「ああ、ローションだよ。マッサージとかで使ったりもするんだけど、まぁ、用途はあとで分かるよ」  少しだけ、ユーヤはいやな予感がしたが、恭隆をその気にさせたのはユーヤ自身だと思い出し、押し黙った。 「それと、冷蔵庫にあったはちみつを持ってこようかな」 「はちみつですか?」 「うん。この前は、苦かったと思うしね」  恭隆はにこりと笑うが、ユーヤはいつのことだったか思い出せずにいた。目を丸くするユーヤをにこやかに見ながら、恭隆は台所へ向かい、準備を進める。  手慣れたもので、恭隆はユーヤの首と手首に枷をはめ始める。ユーヤを寝そべらせた後、手は上にあげ、自身のベッドにつけたカラビナに手枷の鎖をつなげる。程よく温められた部屋では、シャツ一枚でも問題はない。もちろん、ズボンはそのまま履いた状態だ。 「……本当に、大丈夫だな?」 「ヤスタカさんは心配性です。僕は何でもないですよ」  うっすらと見え隠れする痣と、まだ生え変わらない牙を見れば、否が応でも事件を思い出させる。本人への要らぬ負担をかけさせぬよう、恭隆はこれ以上の追及をやめた。  白日の下にさらされたユーヤの肌は、興奮からかわずかに色めき立っている。その熱に、恭隆の心は浮足立った。その興奮を悟られぬよう、恭隆はローションを適量取り出し、自身の手で温めていく。ぐちぐちと音を立てながら、人肌くらいにしていけば、ユーヤの肌に触れ、塗っていく。 「んんっ……」  ローション特有のぬめりけに恭隆の手つきが加わりくすぐったさを覚える。腹を撫で、だんだんと上へあがっていく。胸元にまでたどり着けば、刺激に弱い、ユーヤの小さなつぼみにも、恭隆の手が当たる。 「あっ……」  恭隆はそのまま、胸を中心にローションを塗り込ませるような動きをする。蕾への刺激は、ほどほどに、あえて触れぬようギリギリのところで引き下げる。触れてほしそうに立ち上がる蕾は、桃色に色めき主張を強くする。 「ユーヤ、気持ちいい?」 「っ……でも、もっとほしいです」 「どこに?」 「んっ……いじわるです、ヤスタカさん……」  顔を隠せず、紅潮している顔を左右に振るだけのユーヤが、一層愛らしく見える。そのたびに体はよじれ、扇情的に映る。 「言ってごらん、ユーヤ。……どこに、触れてほしい?」  さすがの恭隆も、箇所を言わせるのは意地悪が過ぎると思ったのか、押し黙るユーヤを見て、蕾を親指でやさしく押しあげる。 「あっ……そこ、が、ほしいですっ……」 「ここだね」  両手で双方の蕾を押し上げ、こねるような指使いをすれば、ユーヤの吐息は一層熱を帯び、嬌声も甘くなっていく。 「はぁっ……んっ、んんっ……」  胸を撫であげ、ユーヤの気分も高まり始めれば、恭隆の視線は次第にユーヤの腰にずれていく。刺激を与え続けながら確認すれば、昂ぶりがズボンの中で窮屈そうに主張を始めていた。 「ユーヤ、下も脱がせていい?」  ユーヤの視線もズボンに行けば、状況を確認できたようでコクリと頷いた。そっと胸から手を離し、恭隆はユーヤのズボンをゆっくり下げていく。震えながらも、昂ぶりはゆっくりと立ち上がっている。恭隆はもう一度、ローションを手に取り、温めてから昂ぶりに触れる。初めての刺激に、ユーヤの腰が引いてしまう。 「だめだよ、ユーヤ。逃げないで」 「はぁっ、でも、そこ……は、はじ、めて」 「そうだね。初めてだ。……だからこそ、楽しんでくれ」  恭隆はゆっくりと、右手で胸の愛撫を、左手でやさしく、昂ぶりを撫でる。同時に来る刺激はユーヤには強く、ひときわ大きく、体を震わせた。 「あっ、だめっ、ヤスタカさっ……」 「ダメなときは、ちゃんと決めた言葉があるだろう」  やわやわと撫でていた胸の飾りを、親指でぴんとはじけば、ユーヤの甘い声が漏れる。同時に、左手に感じる昂ぶりの感覚がわずかに大きくなっている。 「ずいぶん、感じやすくなったね」 「やぁっ、いじわる、です……っ」 「……好きなんだね、ユーヤ」  本当に嫌な行為ではないことと、恭隆の中で確信に変わり、左手はゆっくりと上下に動かしながら、胸への愛撫を中心に責めていく。快楽のままに腰をくねらせ、恥ずかしくても隠せないもどかしさに喘ぐユーヤは、実に愛らしく恭隆の興奮は止まらなかった。 「あっ……すき、です。ヤスタカさんがっ、してくれるっ、から……」  行為そのものではなく、あくまでユーヤは、恭隆がするからこそと喘ぎながらも主張してくれる。なんといじらしく、愛らしいことか。 「……俺も、ユーヤだから、好きだよ」  ただの拘束では物足りなくなっていた。拘束され身をゆだねるものは、ユーヤだからこそ、ひときわ美しく思うのだ。  恭隆はユーヤの胸元にキスを落とし、そろそろ限界を迎えそうなユーヤの昂ぶりを鎮めようと、動きを少し早める。先端を親指で撫でてやれば、腰が浮き上がり、波打つように跳ねた後、漏れ出た白濁が恭隆の手にかかる。 「あっ、ヤスタカさん、の手……」 「ああ、気にしないで、ユーヤ」  息を整えながらじっと手を見つめる、ユーヤの目の前で、恭隆は手にかかった白濁を舌の先端で舐め上げた。 「だめ、です……きたないですよ……」  達したばかりのユーヤは、生理的な涙をこぼしながら首を横に振った。 「この前は、俺のを咥えてくれたよ?」 「ぼくのは、だめです……『チーズ』、です……」 「分かった。それを言われたら、今度からはナシだな」  最初に決めたセーフワードが、ついにユーヤの口から飛び出した。手に残った分は、仕方なくティッシュで拭うことにした。ユーヤはほっとしたのか、息を整えることに専念している。そして、あらためて恭隆の方を見れば、見て分かるほどに恭隆も昂ぶりが抑えきれないほどに膨張していた。  恭隆もユーヤの視線に気づき、カラビナに取り付けた手枷を下した。 「今度は、俺のを慰めてほしいな」  リベンジとなる奉仕の行為に、ユーヤの顔はみるみる引き締まっていく。しかし、先ほどまでの快楽を引きずってか、熱に潤む瞳は変わらなかった。ユーヤの上体を起こし、ベッドの上に座らせた状態にする。恭隆はバランスが少し悪いが、立ち膝になり、ユーヤの眼前に自らの昂ぶりを突き出した。ユーヤが覚えているよりも、大きくなっているように見えた。恭隆は台所から持って来たはちみつを、ユーヤに手渡した。 「少し口に入れてから、慰めて」  ユーヤは言われるがまま、はちみつを少量口に含み、舌で口の中になじませる。甘い香りが尾行をくすぐり、そのまま恭隆の昂ぶりにキスを落とす。大きく口を開け、頬張るように咥えた。手枷がついたまま、ユーヤは根元を中心に上下にしごき、先端付近は舌を使い愛撫する。はちみつが味を変え、潤滑油の代わりとして滑りをよくしてる。 「んぅっ……んっ……はっ……」  息継ぎのために少し口を開けば、はちみつがユーヤの口から唾液と共に少し垂れる。そのままユーヤの手にかかり、また潤滑油として根元の滑りをよくしていく。適度に力の入った親指は程よい刺激となり恭隆を快楽へ誘っていく。  恭隆に上手と頭を撫でられれば、ユーヤもうれしくなり、舌と口内を使い、昂ぶりへの出し入れに緩急を混ぜていく。ユーヤの口は暖かく、柔らかい。根元への刺激と相まって、恭隆の余裕も、次第になくなっていく。 「っ、ユーヤ、キスしてっ……口、に」  ユーヤは口を離し、手を離さなければ口に届かないと眉を下げる。余裕がなくなっている恭隆は、ユーヤをベッドへ押し倒し、深いキスを落とす。荒々しくも、無理強いはしないキスに、ユーヤも答え深く舌を絡め合わせる。はちみつの味が、恭隆の口にも広がった。少しから見合わせれば、恭隆は一度顔を離した。物足りなさげに見つめるユーヤに、恭隆は笑いかける。 「ユーヤ、俺の舌、牙で刺して」 「いたい、ですよ?」 「いい。俺の血、吸いながらキスして」  ユーヤが小さく頷けば恭隆の顔に近づき、唇にキスを落とす。恭隆も答えキスをすれば、二人とも舌を出し、絡め合わせる。ユーヤは恭隆の舌を弱く噛み、牙の先端を突き刺せば、恭隆の舌からは血がにじむ。事件の後にしたキスとは、また違う味がする。はちみつがそうさせているのか、それとも。 (あのとき、ヤスタカさん、僕の血を舐めていた)  恭隆の舌に牙を刺し血が流れたように、ユーヤの口内には切れた傷があり、恭隆はそれを舐めていただろう。 (……ヤスタカさんの血を、たくさん飲んだ、僕の血を……)  舌が絡み合い、頭の中は熱で犯されている。その中で、ユーヤは自身の『修行』のことを考えた。眷属は、自らの血を吸い続けた吸血鬼の血を飲むこと。どのくらいの量かは定かではなく、基準はないのだろう。だからこそ、まだ恭隆がユーヤの眷属になれているかはわからない。 (でも、まだ、いっぱい……)  ユーヤは瞳を閉じ、より恭隆の血を味わおうと深く口づけた。 (いっぱい、ヤスタカさんと一緒にいたいな)    恭隆もまた、ユーヤの思いにこたえようと腕をユーヤの背に回し、強く抱きしめながらキスをつづける。口の中は、血とはちみつの味でいっぱいになっていく。 (これから、もっとずっと、ユーヤのそばにいたい……ユーヤに、いてほしい)  求めあうがまま、二人はずっと互いの存在を確かめ合っていた。  誰も知らない、二人だけの苦くも甘い蜜を、深く味わうように。 【了】

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