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②死んでよかった

「闇よ、行け」  ブラックナイトから放たれた黒い光のようなものが、フレイムへ向かう。 「ぐああっ」  力の差は歴然だった。  おそらく、ブラックナイトが追撃の手を弱めなければ、フレイムは死ぬだろう。 「こんなものか」  ブラックナイトはそれまで腰に下げていただけの剣に手をかける。  が、フレイムに背を向けた。 「きゃああああっ」  物陰で腰を抜かして震えていた少女に剣を向ける。 「た、たすけて!」  少女の悲鳴に、フレイムが立ち上がる。 「やめろぉおおおおお」  それは先程までのフレイムと違った。  燃え上がりそうな感情。  怒り。少女を守りたいという気持ち。  勝てないかもしれないという気持ちは吹き飛んでいた。  手のひらから、赤く燃え上がる、炎が生まれた。  大きな炎はブラックナイトへ向かう。  それを、ブラックナイトはただ、受け止めた。 「……少しはやるようだな」  まだ殺すには惜しいかもしれない。そう思ったのか、ブラックナイトの口元には笑みが浮かんでいた。 「また会おう、フレイム」  そう言って、夜の闇にとけていった。  ※※※ 「やばい。超やばい」  とあるマンションの一室。フローリングの床に座り込んだ少年が唸っていた。 「やばい。幸せすぎて死ぬ」  彼は先程からずっとそれしか口にできていなかった。  実はこの少年――黒川甲斐、高校二年生こそが、先程までフレイムと戦っていたブラックナイト。こう見えて悪の組織の幹部だったりするのだが。 「サインもらえないかなー、もらえないよなー、だって敵だもん」  甲斐は大きくため息を吐く。  まあサインのチャンスはいつか回ってくるはずだ。今は我慢しよう。  それよりは、今この幸せを噛み締めるべきだ。 「やばいよなーかっこいいよなーあのボディ。生で見るとほんとかっこいー」 「まだ序盤だから弱いけど、仕方ないよなー。俺幹部だもん。わりと終盤まで生き延びてたしね。でものびしろあったなー。あの技が……フレイムファイヤーが生まれたんだなー。俺がフレイムを導けたんだな……俺がフレイムを育てた男」  普段の彼を知る者が見たら、その饒舌ぶりと、だらしなくゆるんだ表情に驚くことだろう。が、幸い、マンションには彼しか住んでいない。  なので思い切り顔をにやけさせる。 「推しをこんな間近で見れて、しかも推しを成長させることもできるなんて、幸せすぎて死にそう……いや、まだ死にたくない。終盤までは生き延びて、あわよくば、最終回すぎても生き延びて、推しを見守りたい……だがあの完璧なドラマを変えるわけにもいかない……まあまだ序盤だから考えなくてもいいか」  黒川甲斐、高校二年生。  悪の組織エタニティの幹部、ブラックナイト。  そして、フレイムの大ファン。 「ああほんと死んで良かった、生まれ変わって良かった」  そして、大好きな特撮ドラマ『炎の戦士フレイム』の世界に転生した少年だった。

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