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⑪悪夢のような週末が終わり

 悪夢のような週末が終わり、月曜日の朝。  腰が痛くてろくに歩けないし、正直休みたくて仕方なかったが、病気というわけでもないので何とか支度をして学校に向かうことにした。  それにしても好きな人を人質にとられるってこういう感じなんだな、と甲斐は思った。人質をとるのも人質にとられているのも同一人物というのがなんともいえない展開ではあるが。  家を出ると何故かマンションの前で、焔が満面の笑みで待っていた。 「甲斐、おはよう」 「……おはよう、正岡」  いつになく楽しそうな焔とは対照的に、甲斐はどんよりと重いため息を吐いた。朝からヒーローに会えてラッキー、なんて、数日前までの甲斐だったら思っていたのに。  甲斐の調子などお構いなしに、距離をつめてくる焔。キラキラした顔を近づけると、「焔って呼んで」耳元で囁くな。 「……騙された。お前は正義のヒーローなんかじゃなくて悪の化身だ」 「悪の化身は甲斐の方だろ。まあ、俺も甲斐の方につきたいけど」 「絶対やめろ」  焔ならやりかねないところが恐ろしい。いったい誰だ。こいつが正義の心を持ったヒーローだと言ったのは。 「甲斐、帰りにどっか寄らない?」 「寄らない」 「俺と甲斐は『付き合ってる』んだよな?」 「……少しだけなら」  果たして付き合うというものは片方のわがままのみを聞くものなのだろうか。そんなことを考えながら焔の表情を窺う。整った顔が嬉しそうにほころんでいる。  やっぱり顔がいいな。顔だけはいい。  思わずにやけそうになる顔を引き締める。  どうしてこんなことになってしまたのか。考えてみてもわからない。ただ、甲斐が転生者だったせいで焔に何らかの影響を与えてしまったのだとしか考えられなかった。何故だ。俺はフレイムのために血の滲むような努力をしてきたというのに。これは手酷い裏切りではないのだろうか。   ※※※  幸運だったのは体育も移動教室もなかったことだ。一度席についてさえしまえばほとんど動かずに過ごせた。  昼は心配した焔が購買にパンを買いに行ってくれた。そもそも焔のせいでこんなことになっているのだが、まあ、ありがたく受け取った。    そうして放課後。甲斐は焔の帰りを教室で待っていた。  焔のやつは自分から寄り道しようと誘ったくせに、ちょっと用事ができたから待っていろと甲斐を教室に残して行ってしまったのだ。  正直疲れていたし、焔を置いて帰ってしまいたかったのだが、そうすると後が怖い。  仕方がないのでぼうっとしていると、スマホにメッセージが届く。 (あ、ブリザード様だ)   内容は次回の出動について。  フレイムをサポートしている人間の存在が気になるのでくれぐれもフレイムを殺さないこと。戦いをする中でデータを取るのが目的であること。  これは物語中盤でわかることなのだが、フレイムを変身させた鶴見博士と甲斐の上司にしてボスのブリザードには昔から因縁がある。  ブリザードは世界を征服する上で鶴見博士の存在が邪魔になると知っているので、フレイムそのものよりもそのバックに鶴見博士がいるのではないかということが気にかかっている。 (まあズバリ鶴見博士が絡んでいるわけだが、まだ報告するわけにはいかないしな)  ブリザードがそれを知るのは物語中盤のこと。  だが、そもそも、物語はフレイム通りに進むのだろうか?  こちらが物語通りにしようとしても、焔が何かしでかすかもしれない。  頭を抱えながら、甲斐は上司に返信することにした。

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