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⑬呼ばれた!

   焔はことあるごとに甲斐に好きだと言ってきたが、それ以外は前までとあまり変わらなかった。初日にされたことが濃厚すぎて、これから毎日あんな目に遭うのではないかと身構えていたが、考えすぎだったようだ。  変わったことと言えば毎朝マンションの前で焔が待っているようになったことだが、月曜日から始まって金曜日には自然なことのように思えてきたから不思議だ。  帰りに遊びに行ったりすることも増えたが、買い物だったりゲーセンだったり、ごく普通の友人同士がするものばかり。  正直に言って、焔といるのは楽しい。焔の話は聞いていて飽きないし、趣味も合う。そして何より顔が良いので見ていて楽しい。  だから、付き合うっていうのもそこまで悪いことではないのかもしれない。  そんな風に思っていた。  土曜日、ブラックナイト出動の時間。  雑魚を倒したフレイムの元に現れる作戦なのだが、よく考えると、正体がバレているのだ。  ブラックナイトは躊躇った。何だか急に恥ずかしくなってきたのだ。こんな怪しげな仮面で顔を隠してるし。ブラックナイトって名前も急に恥ずかしく感じる。あと、口元が出てるから表情を完全に隠すこともできない。  こんな状態でフレイムと戦えるのだろうか? いや、フレイムもこちらと戦えるのか?  考えていても仕方がない。  雑魚が倒れたことを確認し、フレイムの前に現れる。 「――ブラックナイト」  呼ばれた!  実は先週も焔に呼ばれているのだが、あの時はそれどころじゃなかったし、公式イベントでもなかった。それに変身したフレイムに呼ばれるのはこれが初めてだ。うまく録れてるといいのだけど。  フレイムの声は焔の時よりくぐもって聞こえるが、それもまたセクシーで魅力的だと思う。 「少し、試させてもらう」  剣を抜くと、フレイムも剣を構えていた。あれはフレイムソード。新しい武器を目の前にして興奮しそうになる自分を戒める。  先に動いたのは、フレイムだった。  ――キーン  フレイムの攻撃を受け止める。  速い。 「もう弱いとは言われたくないからな――フレイムファイヤー!」 「……くっ……闇よ!」  フレイムの放つ炎をとっさに防御する。  黒い光が盾のようにブラックナイトを守る。  以前見たものよりも炎が大きい。 「少しは強くなったようだな、フレイム」  そう誉めると、フレイムは心なしか嬉しそうにしている。大丈夫だろうか、ブリザード様にバレないだろうか、これ。 「鶴見博士が開発してくれたフレイムソードの力だ」 「え」  一瞬思考が止まる。  何で敵に鶴見博士の情報をあっさりと流してるんだ。 『よくやったブラックナイト』  ほら、ブリザード様にも聞かれてるんだってばこれ。もう聞かれちゃってるって。  そもそも情報の流しかたが怪しすぎてどうかと思う。あっさり鵜呑みにする上司に不安になる。甲斐は正しい情報だということは知っているが、そうでなければ信じないだろう。    また展開が変わってしまったことにため息を吐く。  とりあえず、必殺技も見たし、新しい武器も見た。バックに鶴見博士がいることまでわかった。  ――後は、耐久力か。 「闇よ、」  前回よりは力を込める。だが死なないように加減しておく。  もしかすると週末はちょっと身動きがとれなくなるかもしれないが。 「行け」  闇の光がフレイムを襲う。 「ぐあああああああっ」  フレイムの悲鳴を聞き終わると、ブラックナイトは闇に消えていった。

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