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第3話:柳さんのお仕事

「ここの十階。そこにエレベーターあるから」  そう言われた俺の視界に映っていたのは、もう、超高級マンション。オーラが、放たれるオーラが違う。つか何階建て? 十階なんて俺デパートでも行ったことないよ?  「あ、もしかして高い所苦手とかある?」 「ないですないです! ただ十階って今まで行ったことのない高さなんでちょっとビックリしただけで」 「じゃあ念のためカーテンは全部閉めよう。個人的には、俺の映画鑑賞室を大津くんがどう思うかが気になるけど」 「え」  映画鑑賞室? 映画を見るだけのために部屋設けてるのこの人? こんな高そうなマンションの一室を?  頭が期待と緊張でふらふらしながら、俺と柳さんはエレベーターに乗り込み、十階で降り、角部屋の柳さんの部屋へと向かった。その時思わず下を見て俺が内心でヒャー! と恐怖の雄叫びをあげたことは内緒だ。  部屋に通されると、もう玄関から何から何もが高級品の塊、高級品の大安売りという語義矛盾が生まれるような豪華なリヴィングが広がっていた。 「あ、そうだ。その服じゃキツいでしょ、後で寝間着貸すよ、着てないやつ」 「え、いえ! 大丈夫です! 恐縮です!!」  俺がビビりまくってるのが分かっているのか、柳さんは薄い笑みをたたえたままカウンターキッチンに入っていった。え、っていうかこの人料理もできるの?   柳さんのスーパーハイスペックぶりについて行けない俺は『スパダリ』って実在するんだ……とか何とか茫洋と思っていた。 「はい、アイスティー。たまには俺が出すのもいいだろ?」 「あ、ありがとうございます!」    カウンターは、行ったことはないけどバーみたいな作りになっていて、高い椅子が三つ並んでいた。ダメだ、俺こういうおしゃんてぃーな所行ったことないからどう振る舞っていいかわかんねえ! 「そこ座ってよ、俺、横座るから」  柳さんは優しく言って、自分もアイスティーに(これまた高級そうな瓶詰めの)蜂蜜を垂らしてグラスを手に取った。俺は恐る恐る、おそらくはスツールと呼ばれる椅子に座り、アイスティーに口を付けてみた。  ら。  何だこれ! 香りすげえ! 茶葉が! 甘酸っぱさも絶妙! 氷も洒落た形してる!!!  思わず俺はアイスティーを一気飲みしてしまった。 「なんかさっきから緊張してる?」  心配げな顔で、柳さんがこちらを向いた。 「い、いえ! あまり体験したことのないことが発生しているので……、あ、あれ——?」  頭が急にぐるぐる回り始め、俺は思わず柳さんの肩を掴んだ。が、そのまま自重で床に転がってしまった。 「またディーラーも強いの仕込んできたなぁ。大津くん、意識ある?」  柳さんは無様に倒れたままの俺を起こそうともせずにそう尋ねてきた。  意味が分からなかった。意識ははっきりある。柳さんがいつもの微笑みとは多少違う類の笑みを浮かべていることも知覚した。そして、意識はあるのに身体が言うことを聞かない、という金縛りのような状態。  なに、これ……。 「じゃあ大津くん、始めるね」  柳さんは表情を変えず、軽々と俺をお姫様抱っこして、ベッドルームのツインベッドに放り投げた。

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