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第4話:本性

「あ、ああ、ううぅ」  声は出るのに言葉にならない。全身が自分の意識で動かせない。そして同室には俺の癒やしだった柳さん、だけど今はほとんど別人のように見える。それより気になることがあった。 ——始めるって何を? 「大津稜くん、前に俺さ、外資系の企業に勤めてるって言ったじゃん? アレは半分本気で半分冗談なんだよね。  俺の本業は調教師、調教が終わったらバイヤーに引き渡す。普段はクライアントから調教を依頼されるんだけど、今回は俺の私情。まあ、だから厳密に言えばビジネスじゃないね。  あ、ちなみにピアニッシモのマスターも一枚噛んでるから今日を境にきみが欠勤してもスルーされる」  ちょ、調教って何? なんか芸でも仕込まれるのか? 「じゃあ始めよっか」  そう言って柳さんはベッドの上の俺に近付いたかと思いきや、いつの間にか手にしていたナイフで俺のTシャツを切り裂いた。  ま、待って、刃物とか! 何!  「キスは最後に取っておくのが俺のモットー」  なんてことない口調で言いながら、柳さんは俺のはだけた胸に手のひらを乗せ、ゆっくりとさすり始めた。  全身の肌が、ビリビリと音を立てるような感覚がした。  な、何これ……さわられてる所が……き、気持ちいい? 「あっ、はぁ、はっ、あっ!」  思わず呼吸が荒くなる。やめてくれ! 白状するが俺は童貞だ!! 性的なことには元々淡泊で自慰もそんなにしないタイプなのに、い、いきなりこんな——! 「あっ、くっ……!」  俺は目をきつく閉じていた。動悸がする、顔が赤くなるのが分かる、そんな自分を見る柳さんの顔を見たくなかった。 「すっごい感度。もう腰振ってる」  はぁ?!  「でもごめんね、大津くん。そこは最後なんだ。今から二時間くらいは上半身しかさわらないから」  そう言うと、一瞬柳さんの影が消え、戻ってきたと思ったら、仰向けの俺の胸に、何かぬるぬるした暖かい液体が降ってきた。 「ああっ!」  こ、これがローションってやつ、なのか? 柳さんの長い指が、俺の胸を外側からじわりじわりとそれを塗り込むようになぞっていった。  ヤバい、これヤバい——! 「もう分かるでしょ、どこ触って欲しいか」 「あっ、ん、ああっ!」 「ああ、そっか。今喋れないんだっけ?」  そう言うと柳さんは俺の胸の先端を中心に小さな円を描くように指を動かし始めた。 「ああっ! あん! あ、ああああ!」  ダメだ、これダメだ、頭おかしくなる!! 自分がどんなはしたない声を挙げているか聞きたくもなかったが、勝手に出てくるのはひたすらに嬌声だった。 「先、触って欲しい?」  柳さんが俺の髪を引っ掴んで顔を覗き込んだ。俺は目を開けなかった。  すると柳さんは胸から腹にかけて指を落とし、臍の下、ベルトも外してないデニムのきわまで撫で始めた。 「ぅわあ!」 「もっかい聞くね。胸のところ、触って欲しい? 口利けないなら頷いて」  ここで首を縦に振ったらもう後戻りできない予感がしていた。だから俺は必死に首を横に振り、それでも声を挙げ続けた。 「素直じゃないねぇ。じゃあもう行こっか」  次の瞬間、二本の指が俺の胸の先端を擦り、俺はそれだけで射精してしまった。

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