6 / 17
第6話 地獄の門
暫くして、車はどこかで止まった。
俺は男の股間に頭を置いているので、自分の視界からはどうやっても外の様子が見えない。
カチャッ、ガチャンッ
車のロックが外れる音が聞こえ、ふわんっと外の香りが中に吹き込んできた。
「体起こせ」
男の言葉に慌てて体を起こす。そして、目だけであたりを見渡した。
車の窓から見える景色的に、そこはどこかの家のガレージだろうと思われる。
「早く降りろ」
「は、はい」
慌てて降りると、地面はなめらかなコンクリートの床。空調のせいかかなり冷え切っており、思わずふるりと身体が震えた。
その床の上に自ら正座し、男が降りてくるのを待った。男は少し粗野な動きで、車から降りる。改めて見ると、高そうな靴には、有名ブランドのロゴが入っているのに気づく。
恐る恐る見上げれば、男は俺を面白そうに見下ろしていた。
「いい格好だ、そのままついて来い」
そう言った男は、すたすたと歩いていくので、俺は言われた通り、その背中を追っていく。ガレージから扉を抜けて廊下、そして、
連れてかれた場所は、薄暗い地下室のような場所で、打ちっぱなしのコンクリートがおしゃれさを醸し出している。
随分手入れが行き届いており、床も四つん這いしていても、不快なベタつき等はない。
廊下の突き当り、一番奥の部屋。
部屋の扉を男はスマートフォンのアプリを開き、何かしら操作をすると機械音と共にガチャンッと鍵が開く音がした。
男は何も躊躇わず、その扉を開けた。
「えっ、これって……」
「だろ? 俺のコレクション」
綺麗に並べられた鞭、ケイン、卑猥な玩具、蝋燭、縄、ラバー衣装。
部屋の壁に作られたX字の磔。
そして、大きなクイーンサイズのベッド。
ドキドキドキと、胸が高鳴り、身体が高揚する。普通なら恐怖を覚えるべきところなのに、知らない人の家なのに、素直な身体はご馳走を目の前にした獣のよう体が熱くなってくる。
磔にされたら、あの鞭で叩かれたら、あの恥ずかしい衣装を着せられたら。
様々な卑猥な妄想が頭をぐるぐると支配していく。
「今日からお前の住む部屋だ、気に入ったか?」
男は少し小馬鹿にしたようなニュアンスの口調で、興奮ゆえに行きが荒い俺にそう話しかけた。
「住む、部屋?」
「ああ、あの『激安店』の汚ぇ寮にいるよりマシだろ?」
ここに住むのか、よく見れば部屋には足枷や、手枷、吊るすフックなど一式揃えられている。
たしかに、朽ち果てたと言っても過言ではないあの部屋よりも綺麗ではある。
「あの、ここは……?」
「え? 俺の家の地下室」
ですよね。
さらりと帰ってきた言葉に、俺は心のなかでそう告げる。しかし、男はそんな俺を上から見下ろす。
「まあ、些細なことはいいだろ」
その目はぎらぎらと鋭く、目の充血からか赤い光を帯びている。
「黙ったまま、おねだりしてみろよ? 」
男の強い命令に俺は本能から、すぐに正座をすると床に額をつけるように土下座をした。
「土下座はいいなあ、頭を踏めるし」
トンッと後頭部を男の高い靴の底が軽く乗せられる。靴底のゴムの硬い感触が、髪の毛、皮膚、骨から伝わってくる。しかし、それはすぐ退けられた。
「でも、他のポーズにしろ」
男の言葉に身体は考えるよりも先に動く。次は犬のちんちんのポーズだ。わかりやすく、舌もべーっと出して、男を上目遣いで見る。
「おー、ペットっぽいな。βのチンコはΩよりも少しデケェんだな」
男の視線はまじまじと俺の股間に降り注がれており、その視線が恥ずかしくて、思わず顔が赤く火照り始める。
「他は? 」
また、身体が勝手に動く。今度は四つん這いになり、上半身を床につけお尻を男の方に向けた。
「まあ、これもありかも?」
今度は男の靴の甲が、股間をポンポンと優しく蹴り上げる。あまりにも、急な刺激にビクッと身体を跳ねた。
「いつか、蹴りだけでもイケるようにしたら、面白いかもな」
下品な思いつきで面白そうに声を弾ませる男は、尻の肉を両側から掴み、ぐいっと隠れた穴を露出するように割り開いた。
「そこそこ、豪毛か。てか、縦じゃねぇってことは、もしかして経験なし? あの店で?」
男の問いかけに、数回首だけで頷く。店では、俺は未成年でもあるから裏オプションが店の指示により禁止になっていたため、そこは一度も使ったことがなかった。
「初物かあ、普通なら俺の入らねぇなあ、このままだと」
その言葉に、身体がぶるりと縮こまった。αの性器は、とにかく長くて太い上に根本に玉のように膨らむ部分がある。
何度か見たことがあるため、その凶悪さは想像するだけでも内臓がぎゅうっと収縮していく。
「まあでも、大丈夫だよな、切れたほうが早そうだし 」
男の下半身がぐいっと押し付けられた。男の履いてるズボン越しに確実に存在しているソレ。まだ、半勃ちくらいのそれは、ぼこぼこと血管や筋がハッキリとわかる。
「まあ、いいや。ヤるにしても、セーフワード決めねぇとならねぇしな。なあ月代、好きな食べ物は? 喋っていいぞ」
セーフワード。それは、ハードなプレイをする時には必要不可欠な言葉で、Subが行為中に限界を迎えたりした時にストップを掛けるための言葉だ。
今まで、一度も決めたことのないもので、まさかそんな提案をされるとは思わなかった。
「好きな食べ物……」
「一つくらいあるだろ」
好きな食べ物を考える余裕があまり無かった人生のため、少しばかり答えに詰まってしまう。それが短気そうな男は待てないのか、催促した。
なので、自分の中のご馳走の一つを口に出した。
「じゃあ、『スパム缶』で……」
「『スパム缶』? 随分と、変わったもん好きだな……まあいい、『スパム缶』がセーフワードだ」
男はそう言うと俺の尻肉を優しく擦った。
「じゃあ、始めるぞ」
「はい、御主人様……」
「御主人様ぁ?」
「ご、ごめんなさい!」
返事に思わずメイドの癖が出てしまった。思えば、メイドは趣味じゃないと言っていたような気がする。やってしまった失言に思わず青褪めて、きゅうっと更に身が縮こまる。
ペシンッ
「あ゛ッッ!!!」
男は俺の尻肉を、一発強く叩いた。
「あのメイド喫茶みたいで気持ちわりぃ。俺の名前は、西尾陽彦 だから、陽彦様と言え」
「わ、わかりました、はるひこ様」
「良くできました。わあ、赤くなってるケツ。俺の手形が残ってるわ」
熱くジンジンと痛む叩かれた場所を優しく撫でられる。敏感になったそこを撫でるたびに、ゾワゾワとした気持ち良さと未だ残る鈍痛。
「はるひこ様ぁ、その、叩いたところジンジンしま、す……」
「そう? じゃあ、もう片方も叩いてやるよ」
男はまた容赦なく手を振り下ろした。
ともだちにシェアしよう!