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PANDA EXPRESS

「あ゛~死ぬ。マジ死ぬ」 「どうしたんスか呉哥哥、目の下にドス黒ぇ隈ができてるっすよ。寝不足っすか」 「ぎゃんぎゃん騒ぐなこちとら徹夜明けだ」 「昨晩はお楽しみで?」 「愛人股にかけてヌきまくってもおさまんなくてまいっちまうぜ」 「いいじゃないすか、女どもは嬉しい悲鳴っすよ」 「まだまだ現役なのは有り難ェけどな。そーいや劉、お前こないだ預けた精力剤の在庫どうした?」 「信頼できる筋に預けたって言ったでしょ。バテてねェで昼飯っすよホラ、早く食っちまいましょ」 「またデリバリーのチャイニーズか」 「好きでしょパンダエクスプレス。大戦前から続いてるなんてすごいっスよね、愛されてる」 「オレンジチキンは?」 「売り切れでした」 「買い直し。とっとと行ってこい」 「はあ?今から?また行列並び直せってんすか、外小雨がぱら付いてんのに。せめて飯食ってから」 「背中とお腹がドッキングしそうな腹ぺこちゃんの俺様さしおいて自分だけ食おうって?血も涙もねー舎弟は胃液がでなくなるまで締め上げるか」 「…………|是《シー》」 「あ~~だり~~~そんなにオレンジチキン食いたきゃテメェで並べっての業突く蛇、どーせ味わかんねー馬鹿舌なんだから別のだっていいじゃん俺だって腹空いたっての。オレンジチキンは鉄板メニューなんだからこの時間帯はどこも売り切れだって、もう三軒目だぜ勘弁してくれ……けどまァ、しっかりクスリ効いてんのはいい気味。茶に混ぜりゃバレねーし味覚音痴で助かった」 「独り言激しいね。心の病?」 「うわびっくりした。ってまたお前か」 「俺だけど悪い?」 「悪かねーけど……あー、そのー……こないだの栄養剤ドリンクどうだった?」 「効き目ばっちり。顔見ればわかるだろ」 「出涸らしになるまで搾り取られたって感じだな。頬こけてねーか」 「元凶がどの口で言うかな」 「……ホント悪い、でものっぴきならねー事情があったんだ。わかるだろむしろわかれ」 「申し開きは受け付けない。どうせまた上司の無茶振りで不良在庫押し付けられたとかでせこい同情引くんだろ」 「…………」 「図星」 「発注ミスで大量に抱えてたんだ。何箱か捌いてこいって命じられて」 「で、エレベーターに相乗りした俺をまんまとだまして引き取らせたと」 「ちゃんと元気になる薬って言ったろ」 「元気になる部位を説明しないのは手落ちだろ」 「精力剤だって広義の栄養剤だろーが、ちゃんと快楽天の漢方薬局で売ってるヤツだし非合法な成分は入ってねぇぞ多分。大体鬼畜上司にゲンナリしてるからって栄養ドリンク箱買いするかよ、一目で訳ありって察しやがれ」 「童貞に精力剤なんてなおのこと必要ない」 「キャラ変わってね?」 「誰かさんのせいでね」 「ホントすまなかった、俺も困ってたんだ。段ボール三段重ねで腕は痺れちまうし、シンクやトイレに流すの厳禁だって言い付けられてっし」 「見てなきゃわからないだろ」 「嗅ぎ付けそうで怖ェ」 「強迫観念が凄まじい」 「な、頼む、許してくれ。パンダエクスプレスおごっから」 「……仕方ないな」 「え?」 「え?ってなに」 「あ、いや……思いのほかあっさり許してくれたから」 「劉を責めても仕方ない。よく聞かなかった俺も悪いし」 「お前いいヤツだな」 「列進むよ」 「おっと。この店にはよく来んの?」 「パンダエクスプレスはたまに利用するよ。今日は近所のデリカッセンが休みで、ちょっと足を伸ばしてみたんだ。本場のチャイニーズが手軽に愉しめていいよね」 「本場ってゆーと語弊があるけどな。大分こっち風にアレンジされてるし」 「そうなんだ。大戦前から続く有名チェーン店なんだろ」 「らしいな、よく知んねーけど」 「赤い包装にパンダのイラストが可愛いよね。ここのオレンジチキンが絶品でさ、すっかりファンなんだ。会計でもらえるフォーチュンクッキーも楽しみで」 「食べ物の話になるとホントいい笑顔になるな」 「劉は?やっぱり毎食チャイニーズなの」 「ってわけでもねえけど……まあ大抵はそうか。近場で便利だからよく来るんだ。中華料理屋なら下にもあるけど、生憎と今日は休みで」 「一緒だね」 「変な偶然」 「なんでパンダエクスプレスっていうか知ってる?」 「あー……イケてる中華を超特急で出すからとか?あてずっぽだけど」 「なるほどそれでか」 「素で感心してっけど前振り的にそっちがトリビアたれるんじゃねーのかよ」 「いや、単純に劉なら知ってると思って。半分中国人だし」 「お前の番だぞ」 「先いいの?」 「譲ってやる。せめてもの詫び」 「じゃあ遠慮なく……すいません、メインはオレンジチキンとモンゴリアンポークとストリングビーンチキンとクンパオチキンとブロッコリービーフとシャンハイステーキとエッグプラントトーフとグリルドマンドリンチキン」 「ちょっと待て」 「サイドメニューはホワイトライスとチャオメンとフライドライスでお願いします」 「全制覇かよ??テイクアウトの概念思い出せよ」 「おごってくれるんだろ?」 「いやおごるけどさ……メインは一個に絞れよ」 「俺のツバメさんが部屋で腹空かせて待ってるんだ、半分持てよ」 「わかったわかった、全部俺が悪いんだよなハイハイ。財布役でも荷物持ちでも好きに使え」 「次は劉の番」 「メインはオレンジチキンでサイドはチャオメン」 「フォーチュンクッキーもらった」 「ここで食うのかよ?」 「中身が気になるじゃん」 「で、今日の運勢は」 「『類は友を呼ぶ。買い出しにでると吉。ラッキーパーソーンは低血圧の友人』だってさ。劉は?」 「ここで割んの?」 「いいから」 「えーと、待てよ……『旅は道連れ世は情け。上司と反りが合わない。ラッキーパーソーンは列の前の人』。うるせーばーか」 「捨てるなよ道が汚れる」 「中身ならいいじゃん、もとから汚れてんだし」 「捨てたのがクッキーの方なら本気で怒る。けど劉がいてくれて助かった、一回やってみたかったんだよねパンダエクスプレスのテイクアウトメニュー全制覇。スワローも驚くぞ」 「両手塞がって煙草も喫えねェよ」 「この程度で許してやろうっていうんだから感謝してほしいね」 「幸せそうな顔でフォーチュンクッキー齧ってんじゃねー、頬ぺたにクズ付いてんぞ」 「砂糖とアーモンドとココナッツかな……イケるよこれ。ああそうだ、捨てる位なら劉の貸して」 「おい待て何す」 「オミクジは引いたあと結ぶと願いが叶うって聞いた」 「俺の髪に結ぶな。てかそれよその国の文化だろ、混ぜんな」 「似合うよ……ぷくく。かわいい」 「無理矢理結ぶなって、あーもーぜってェおもしれーことになってんだろアタマ……すれちがうヤツらじろじろ見てっし」 「前髪伸びすぎだから纏めなよ、目に入ると痛そうだ」 「ほっとけ、人の顔まともに見たくねーんだ」 「悪い結果でもこうすれば厄を祓える」 「そーゆーインチキくせえ知識どこから仕入れてくんの」 「母さんの馴染みに東洋人がいたんだ。一回居合を見せてもらった」 「ありがとう劉、助かった」 「どういたしまして」 「遅かったじゃねェか駄バト、どこで時間食って……げ、劉」 「げってなんだよ失礼な奴だな」 「途中で会って運ぶの手伝ってもらったんだ」 「何その引く荷物」 「パンダエクスプレスのテイクアウト、前に全制覇したいって言ってたろお前。ほら、オレンジチキンもある」 「へー、偶然バッタリってか。ところでそっちのイエローチキンはなんでおもしれー頭してんの?」 「犯人はテメェの兄貴だよ、手え塞がっててとれねーんだよ」 「厄除けにオミクジ結んだ。どうでもいいけど出てくるなら服着ろ」 「着てんじゃん何が不満だ」 「ジーンズ一丁は着たうちに入らない、上も何か羽織れ」 「人のセミヌードを猥褻物と同列に語るんじゃねえ、出すとこ出しゃ立派に金とれる芸術品だ」 「露出狂には違いないしアパートの廊下で出す物なんて絶対にない、断固としてない。芸術で金とろうって俗っぽい発想がまず嫌だ」 「芸術ってなァ認めんだな?俺の勝ち」 「待って今のなし取り消し」 「あのさ……用済んだら帰っていい?まだデリバリー残ってるんで」 「遊んでくなら歓迎だぜ、テメェにもらった栄養ドリンクまだたんまり残ってんだ」 「そりゃ良かった、膀胱炎になるまで飲んでくれ」 「とっちまうのかよもったいねえ」 「ンなふざけた頭で帰ったらぶっ殺される。じゃあな」 「ただいま帰りました」 「待ってました俺のオレンジチキンちゃん、とっととよこせ」 「……俺の飯は?」 「あん?」 「出る時テーブルにおいといた俺の飯。ホワイトライスとモンゴリアンポーク」 「あーアレな。味付け濃くて飯が進んだ」 「……死ね」 「茶は?とっとと淹れてこい、うんと濃くしろよ」 「濃縮還元了解っす」

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