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Life counseling
「よ」
「あ、劉。君も洗濯に?」
「アパート住民専用の共同ランドリールームに来る理由なんてそれっきゃねーだろ。しっかしこのアパートって不便な造りだよな、いちいち洗濯しに半地下に降りなきゃいけねーとか面倒。どうりで吹き溜まりになる訳だ」
「はは……否定はしないけど、そんな言い方したら親切でおいてくれてる大家さんが傷付くよ」
「下心の間違いだろ?家賃滞納した店子にポルノビデオ出演斡旋する悪徳大家だってその筋じゃ評判だぜ、お前も唾付けられてんじゃねーの」
「劉もスカウトされたの?」
「ノーコメント」
「だよね……」
「結構ためこんだな、持ってくんの大変だろ。力仕事は弟の領分じゃねーの」
「スワローは外出中。俺だってこー見えて体力あるよ、洗濯物運ぶ位余裕さ。エレベーターが壊れてると死ぬけどね……一山抱えて階段上り下りは辛い、多い時なんて往復する羽目になる」
「突っ立ってンのもなんだな、そこ座って話そうぜ」
「うげ」
「どうした」
「いや、なんでもない。ベンチにガムがくっ付いてて……」
「そりゃお気の毒様。にしても蒸すなここ、サウナかよ」
「地下だから空気がこもってるんだよ、みんな服干してるし」
「長居にゃ向かねー場所だな」
「上階に住んでる人は屋上に干すけどね。空が近い方が気持ちいい」
「人目を憚るオイタするにゃ好都合だな」
「人目を憚るオイタって」
「ご近所さんと不倫、ドラッグの売買、シンナーの吸引」
「ああ……こないだ見たよ、その洗濯機の上でマイルズさんがベビーシッターの女の子とヤッてるの」
「マジか」
「洗濯物もってきたらばったりでくわして口止めされた。まったく、誰が来るかわからないのによくやるよ」
「おさかんなこった」
「あー……そういえば劉、さ。ちょっと相談いいかな」
「借金の無心は却下」
「そっち方面は最初からあてにしてない。じゃなくて真面目に」
「なんだよ相談て、俺に答えられることならやぶさかじゃねーけどよ。買い時の株とか聞かれても困るぜ」
「俺の友達の話なんだけど」
「友達ね……女?」
「うん……ううん?」
「どっちだよ、はっきりしねえな」
「ええと……恋人と同棲中の女友達。性生活で悩んでるんだ」
「具体的には?」
「その友達には十数年来の長い付き合いのパートナーがいるんだ」
「十数年来ってすげーな、幼馴染?」
「兄弟のように育った間柄。て、今はアパートで同居してるんだけど、ソイツが無茶苦茶な絶倫でさ。毎日のように求めてくるんだ」
「熱烈だな」
「最近は普通のプレイに飽き足らずオモチャ使いたがったりキッチンでヤりたがったり酷いのなんのって。昨日なんかエプロンしたままおっぱじめて汚す始末、ありえないだろ?待てができないんだよホント。友達は別にセックスはいいっていうか、一緒にいられればそれだけで満足してる。もっと穏やかで優しい、互いを思いやれる関係が理想なんだ。けど断ったら断ったで面倒くさいし、挙句浮気してんじゃねーか俺が不満なのかって拗ねて手に負えない」
「その友達ってなァどんなプレイが好きなの」
「正常位だよ。お互いの顔を見ながらやりたい。バックは犯されてる気がしてやだって」
「それはそれで面倒くせェな」
「なんでだよまっとうな意見じゃないか、お互いの顔見ながらじゃないと心が繋がった気がしない、身体だけ繋がっても虚しいだけだ」
「ハイハイ。で、その彼氏ってなぁどんな悪趣味なオモチャ使いたがるんだ」
「ローターとかバイブとかオナホとか……口に出すのも恥ずかしい、もっとエグいのだよ」
「Sっけあんの?そのぶんじゃアナルもずこばこ開発されてそうだな」
「間違いなくドS。あの手この手でいじめまくって相手が泣いていやがるほど興奮するんだ、もとから性格悪い上に性癖こじれきってどうにもならない。オモチャ持ち出すのだって相手がびびって嫌がるのが楽しいからなんだ」
「彼女もオモチャ嫌いか」
「無理矢理使われるのはね、誰だってそうだろドМ以外。でも……」
「でも?」
「なんでもない。忘れて」
「言いかけてやめるなよ気になんじゃん」
「……無理矢理はごめんだけど、合意の上でならナシよりのアリかな。子どもの頃から身近に転がってたし、その……機械の振動って結構癖になるから。指じゃ届かない奥まで届くし、体に合ったの選べば意外と具合よくて」
「ド淫乱じゃん、すっかり調教済みか」
「オモチャがいやなんじゃなくて無理強いがいやなんだ、レイプと一緒だろそんなの。って友達は怒ってた、俺も同感」
「別れちまえよ」
「できたら苦労しない」
「そんな最低ドS野郎のどこがいいんだ」
「アレで結構かわいいとこあるんだよ、誕生日にカップケーキ焼いてやったら半分こしてくれたし。普段オラ付いてるからごくまれにしおらしいとこ見せると頭なでたくなる。ギャップ萌えっていうのかな、本当浮気はするし喧嘩はするし借金踏み倒してこっちに投げるし家事はサボるしで人としては最低のクズなんだけどね、コイツには自分がいなきゃダメだ、自分がいなきゃ生きていけないって思わせる何かが」
「悪質なヒモの餌食にされてるだけだろ、どん引き。DV共依存カップルの愚痴に見せかけたのろけならよそもってけ」
「そ、そこまで言うことないだろアイツだってアイツなりに頑張ってるんだ、今日だって仕事さがしに保安局へ」
「てことは賞金稼ぎか?ますますクズだな。賞金稼ぎにゃまずマトモなヤツがいねえ、暴れンの大好きな人格破綻者の集まりだ。挙句に家事はしねーわ浮気し放題だわ借金するわダメ男の典型じゃねーか、どーせカラダとカネめあてで食いもんにしてんだろ、ヤることヤって飽きたらポイ」
「好きなんだからしかたないだろ」
「はあー……今の話に好きになれる要素あったか?」
「カップケーキ1/2分のやさしさかな」
「……あのさ、やっぱアドバイス聞くヤツ間違えてるよお前。なんで女と付き合ったことねー俺に女友達の性の悩み相談するんだ、嫌味か?いやがらせか?相談する時は得意ジャンル選択しろよ」
「人選は間違ってないよ。不得意な分野の相談を投げださず、最後までちゃんと聞いてくれたじゃないか」
「腰上げるタイミングを見失っただけだ、洗濯終わってねェし」
「いい人だよ劉は。だから話す気になった」
「おだてたって真に受けねーぞ、俺以外に相談できるダチがいなかったんだろどうせ」
「…………」
「図星かよ。へこむなよ」
「変態性欲の権化のパワハラ上司にいびり倒されてる劉なら、渡る世間の酸いも甘いも噛み締めたイケてる回答くれるんじゃないかって」
「わかったわかった俺が悪かった一応お前よか年上だし賞金稼ぎの先輩だ、ランドリールームでばったり行き会ったのも腐れた縁のお導き、掃き溜めの捌け口のオニーサンを頼ってくれ。何これ?」
「作り過ぎたカップケーキ、ご近所にお裾分けしてまわってるんだ」
「例の女友達におしえてもらったの?」
「まあそんなとこ」
「ふーん……お前がいいならいいけどさ。そんなクズとはそっこー別れンのが正解だって女友達とやらには言っとけよ、ガキができちまってからじゃ遅い、みんな不幸になる」
「心しとく」
洗濯物籠に洗いたての衣服を詰めてピジョンが去ったあと、ランドリールームのベンチに一人取り残された劉は、カップケーキを食いながら首を傾げる。
ピジョンは女友達の話だと前置きしたが、だとすると……。
「他はともかくオナホって……生えてんのかよ?」
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