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21 いざバーベキュー
我が寮は最大四十名。不参加も居るが今年は殆ど参加したようで、三十名ほどの大所帯でのバーベキューとなった。管理人さんと栄養士さんも呼んだのでさらに増えている。
「皿足りてねーぞー」
「ビールどこー?」
「割り箸落としたんだが」
「お前ら先輩にやらせんのか!」
「おら、焼けたぞ。持って行けー」
「今めっちゃ推してるストリーマーなんですよ。天海マリナちゃんって言うんですけど」
「こっち氷あるよー」
色々飛び交っていて、もはやカオスである。
俺は苦笑しながら、ハイボール片手に裏庭にある木の傍に置いた、折り畳み椅子に腰かけた。肉の焼ける匂いに、隣の高校で部活動をしている生徒たちが覗き込んでくるのに、手を振ってやる。
「ここに居たのか」
良輔が皿を手にやって来る。
「おー」
「お前、食ってないだろ。ほら。ナスと肉」
「おっと。悪いな」
受け取った皿には、山盛りと肉が積まれていた。ナスの他にも玉ねぎとピーマンも載っている。
「カルビ太るじゃん」
「良いから食え。細いんだから」
隣に腰かけ、良輔はビールを啜る。やっぱりふくよかなのが好みなんだろうか。
折角持ってきてくれたので、箸を割って肉を頬張る。
「んー、美味しい」
「俺にも」
そう言って、良輔が口を開く。
「ほい、あーん」
「ん」
やってから、気恥ずかしさに赤くなる。良輔も同時に赤くなって俯いた。
「っ、今日は、暑いな」
「お、おう。本当だなっ」
今までだってやってたのに、何が違うんだ。たかが「あーん」だぞ。くそ。
上がってしまった体温で、蒸し暑くなる。酒のせいだと言い訳しつつ、もう一口肉を口に運んだ。
「外で食うとなんで美味いんだろうな」
「それな」
青空の下、肉とビールは最高すぎる。酒も入っているお陰で、先輩後輩の垣根は薄く、ぎゃあぎゃあと騒ぎまくっている。近所からクレームが来ないか少し心配ではあるが、敷地の大半は学校と面しているので大丈夫なのだろう。
榎井は有言実行で推しのストリーマーを布教している。天海マリナちゃんも喜んでいることだろう。
星嶋は藤宮に捕まって、ヤキソバ担当に連れていかれていた。その後に続いて、上遠野がキャベツ切りに名乗りを上げている。
「何だかのんびりしてるな」
「だな。平和だ」
良輔がもう一口と言うので、しぶしぶ食べさせてやる。耳が熱い。誰か見てないだろうな。
「……今度、何処か行こうか」
不意に、ポツリと良輔が切り出した。
「何処か?」
なんでそんな曖昧な誘いをするんだ? と首を傾げると、良輔がモゴモゴと口許を動かしながら顔を赤くした。
「……デートだろ」
「――」
思わず言葉を呑み込んで、良輔を凝視した。デートと言われただけで、何で茹でダコみたいになってるんだ、俺は。
「お、おうー?」
「何で疑問系なんだよ」
「いや、だってさ……」
デートなんか、したことないんだ。出会い系で会った男とは、待ち合わせ場所からホテルに直行だった。食事だってしたことがない。本当に、ヤるだけの関係。
「どういう場所に、行くもん?」
「……まあ、景色の良い場所に行くとか、なんかアクティビティを体験するとか……」
なるほど。『体験の共有』をしに行くんだな。多くの恋人たちは体験の共有を通して、共感や不一致を感じて行くのかも知れない。
「お前は、何が好き? どういう場所が好き?」
「え、えーと……」
そう言われると、答えに困った。今までの人生で、何処かに行きたいか聞かれたことはない。何処が好きなのか聞かれたこともない。外へ出ることはイコール逃避で、目的はセックスだけだった。
社会人になって普通のいわゆる『付き合い』を覚えたが、酒の場しか覚えていない。
「解ん、ない」
ようやく絞り出して答えた言葉に、自己嫌悪する。なんて、つまらない人間。
良輔はキョトンとした顔をして、次いで柔らかく微笑んだ。
「じゃ、あちこち行って、好きそうなの探そうぜ」
「――」
思いがけない提案に、返す言葉が見つからなかった。
「う、ん」
「渡瀬、それ貸して」
おぼつかない返事をしていると、横からまだ肉の載った皿をヒョイと持っていかれる。良輔が箸で肉を掴み、俺の目の前に突き出した。
「ほら。あーん」
「……」
今度は良輔が食べさせてやろうということらしい。恥ずかしさに、思わず睨む。
「っ」
俺が食うまでやめる気がないらしい良輔に、根負けしてぱくんと肉に食いついた。
恥ずかしくて、そればかりではない気がして、ざわざわと胸が落ち着かない。
(バカップル過ぎる……)
そう思いながらも、悪くないような気がして、俺は差し出された肉をもう一口呑み込んだ。
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