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26 いつか
スマートフォンをスワイプさせながら、カァと顔が熱くなる。俺、こんな顔してんのか。今までのアホみたいな顔と全然違う。ビッチらしく挑発してる顔がキメ顔だったのに、良輔相手にはこんなにも蕩かされて、だらしがない顔してんのか。なんか凄い……。
(恥ずかしいっ……!)
なんだこの顔、なんだこの顔、なんだこの顔。
「恥ずかしいっ!!」
思わず叫びながら削除しようとしたのを、背後から抱きしめられて阻止される。
「うわっ」
「消すなよ」
「お、起きたのかよ」
「ん」
すり、と背中に頬を擦りつけ、ぎゅうっと抱きしめられる。良輔の体温に、ドキドキと心臓が鳴った。最近この心臓は様子がおかしい。不整脈が酷い。
良輔はさんざん俺を辱めたあと、疲れて居たのか眠ってしまったのだ。残業で疲れてるのに、あんなにハッスルするからだ。まだ眠そうに頭を擦りつける姿が、妙に可愛らしく見えてしまう。
「今何時?」
「もう消灯時間過ぎてる」
寮内であればうろついていても怒られはしないが、大きな音を立てるのは厳禁だ。俺もあとでシャワーに行かねばならない。
「んー……、渡瀬」
「うん?」
「……泊って良い?」
窺うような視線に、ドクンと心臓が鳴る。「あ」と、思わず声が漏れた。
「え、っと……」
「……」
じっと、良輔が見ている。何か、言わないと。
嫌じゃ、ない。嫌なわけない。けど、まだ。
迷っているうちに、良輔は無言で起き上がり、頭を掻いた。
「うん。ゴメン。良いよ」
「あ、良輔……その」
「大丈夫。いつか、な」
「……うん」
小さく頷く俺の頬にキスをして、良輔は立ち上がった。服を拾い着替えると、「じゃあ、先に風呂行くな」と部屋を出る。その背を見送って、俺は深いため息を吐いた。
(良輔なら、大丈夫だって、解ってんのに)
薄暗い室内に一人残され、頬に手を触れる。
『何よその顔。笑ってるんでしょ! 気に入らないのよ!』
『ブスなんだから、顔隠してろよ。萎えるわ』
『あー、あれだわ。犯人顔。よく指名手配犯とかに居るじゃん』
投げつけられてきた言葉は、ガラスの破片のように降り注ぎ、小さな傷を作る。言った人間は忘れているだろう。「冗談だろ?」って笑うかもしれない。
けど、そんな奴らと、良輔は違う。きっと素顔でも、変なことを言ったりしない。
(まだ、勇気がないけど……)
いずれは、素顔で向き合えるはずだ。そしてそれは、遠くないはずなんだ。
「……スキンケア、しないと」
ポツリつぶやいて。呪いのような言葉を振り切るように顔を背けた。
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