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27 ルーツの場所へ
寮の一階にあるラウンジにコーヒーでも飲みに行こうと誘われ、良輔と二人やって来た。ラウンジは利用客がそれなりに多い。デートというわけには行かないが、二人で過ごせるのは嬉しいに違いない。
「それで、榎井のヤツなるべく顔を合わせないようにしてるらしい」
「まあ、天敵らしいからな」
隣の部屋に引っ越してきた天敵と、顔を合わせないように必死らしい。あの超然とした榎井にそこまでさせるのだから、隠岐という男もなかなかだ。だが同期を仲間外れはまずい。本人が関わらないと言うならともかく、一度は誘うべきだろう。
「榎井は嫌だろうけど、一回飲みに行かないとな」
「だな。先延ばしも良くないだろうし」
コーヒー片手にソファーに座り、星嶋の予定も聞かないとな。と思う。
「あ、そういや良輔。今月同窓会って言ってたよな? いつなの? その日は避けないと」
「――」
前に、同窓会があると言っていたはずだ。良輔は一瞬顔をしかめた。
「ああ、あれは……。良いんだ。行かないことにしたから」
「は? そうなの? 何で」
別に忙しいわけでもないだろうに、何故やめたのか。地元のものを送り合うくらい、地元に友達も居るだろうに。
「ん。今年は、良いかな」
「……まさか、俺のせいとか?」
良輔の眉がピクッと動いた。
「そうなんだ。なんだよ。デートはいつでも出来るだろ」
俺を優先したのかと思うと、申し訳ないと思う反面、嬉しくなってしまう。
「あ――うん。まあ、良いじゃん」
恥ずかしそうに顔を赤くする。可愛いなあ。キスしたい。まあ、我慢するけど。
「しかし、そっか。俺も予定あったからさ」
「予定?」
「んー。まあ、掃除なんだけどさぁ……」
はぁ、と溜め息を吐く。
良輔が同窓会より俺を優先させてくれたのが嬉しいのに、俺の方に予定がある。これも先延ばしにしまくっているので、いい加減行かないとまずい。
「掃除?」
「うん。掃除して草むしり……。憂鬱ー」
しかも一日じゃ絶対に終わらないからな。毎回泊まり込んで――。
首をかしげる良輔と目が合う。そうだよな。一緒に居たいんだし。
「なあ、良輔も来る? って言っても、掃除しに行くんだけどさ」
「は? まあ、全然、手伝うけど」
「マジ? 最高じゃん! 俺の実家なんだけどさ」
「実家――」
良輔が目を見開いた。
◆ ◆ ◆
「すっげー田舎だろ。周りに店とかねーから不便でさ。バスもあんまないし車必須」
レンタカーを運転し、年に数回しか訪れない我が家への道を行く。実を言うと会社まで一時間ほどなので、通えなくはないのだが、なにしろ不便だ。道も細いし。
「結構、山だな」
「標高低いから、山なんてもんじゃないけどな」
手付かずの森が多い分、鬱蒼としている。舗装が甘い道路を進んでいくと、雑草ばかり生えた古い家が見えてきた。手前の砂利が敷かれた駐車場に停車し、車を降りる。
「ここが……」
「そ。俺の家。元々は母親の叔父が住んでて。俺から見るとなんだ? 大叔父とかいうのか?」
立て付けの悪い引戸の鍵を開け、玄関にはいる。長いこと空気が動いていない臭いがした。
「まずは部屋の空気を入れ換えよう」
「わかった」
部屋に入り、各部屋の窓を開けていく。うっすらと畳の上に埃が積もっている。
「水と電気は使えるようにしてあるから」
「おう。まずは居間を掃除した方が良いな?」
「うん。居間と隣の八畳間優先で」
言わなくても段取りは解るらしく、良輔は天井の埃払いから手を出す。その間に俺は布団を干して風呂掃除からだ。
(今回はマジで楽勝かも)
頼りになる恋人感謝しつつ、俺は袖を捲り上げた。
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