27 / 46

27 ルーツの場所へ

 寮の一階にあるラウンジにコーヒーでも飲みに行こうと誘われ、良輔と二人やって来た。ラウンジは利用客がそれなりに多い。デートというわけには行かないが、二人で過ごせるのは嬉しいに違いない。 「それで、榎井のヤツなるべく顔を合わせないようにしてるらしい」 「まあ、天敵らしいからな」  隣の部屋に引っ越してきた天敵と、顔を合わせないように必死らしい。あの超然とした榎井にそこまでさせるのだから、隠岐という男もなかなかだ。だが同期を仲間外れはまずい。本人が関わらないと言うならともかく、一度は誘うべきだろう。 「榎井は嫌だろうけど、一回飲みに行かないとな」 「だな。先延ばしも良くないだろうし」  コーヒー片手にソファーに座り、星嶋の予定も聞かないとな。と思う。 「あ、そういや良輔。今月同窓会って言ってたよな? いつなの? その日は避けないと」 「――」  前に、同窓会があると言っていたはずだ。良輔は一瞬顔をしかめた。 「ああ、あれは……。良いんだ。行かないことにしたから」 「は? そうなの? 何で」  別に忙しいわけでもないだろうに、何故やめたのか。地元のものを送り合うくらい、地元に友達も居るだろうに。 「ん。今年は、良いかな」 「……まさか、俺のせいとか?」  良輔の眉がピクッと動いた。 「そうなんだ。なんだよ。デートはいつでも出来るだろ」  俺を優先したのかと思うと、申し訳ないと思う反面、嬉しくなってしまう。 「あ――うん。まあ、良いじゃん」  恥ずかしそうに顔を赤くする。可愛いなあ。キスしたい。まあ、我慢するけど。 「しかし、そっか。俺も予定あったからさ」 「予定?」 「んー。まあ、掃除なんだけどさぁ……」  はぁ、と溜め息を吐く。  良輔が同窓会より俺を優先させてくれたのが嬉しいのに、俺の方に予定がある。これも先延ばしにしまくっているので、いい加減行かないとまずい。 「掃除?」 「うん。掃除して草むしり……。憂鬱ー」  しかも一日じゃ絶対に終わらないからな。毎回泊まり込んで――。  首をかしげる良輔と目が合う。そうだよな。一緒に居たいんだし。 「なあ、良輔も来る? って言っても、掃除しに行くんだけどさ」 「は? まあ、全然、手伝うけど」 「マジ? 最高じゃん! 俺の実家なんだけどさ」 「実家――」  良輔が目を見開いた。    ◆   ◆   ◆ 「すっげー田舎だろ。周りに店とかねーから不便でさ。バスもあんまないし車必須」  レンタカーを運転し、年に数回しか訪れない我が家への道を行く。実を言うと会社まで一時間ほどなので、通えなくはないのだが、なにしろ不便だ。道も細いし。 「結構、山だな」 「標高低いから、山なんてもんじゃないけどな」  手付かずの森が多い分、鬱蒼としている。舗装が甘い道路を進んでいくと、雑草ばかり生えた古い家が見えてきた。手前の砂利が敷かれた駐車場に停車し、車を降りる。 「ここが……」 「そ。俺の家。元々は母親の叔父が住んでて。俺から見るとなんだ? 大叔父とかいうのか?」  立て付けの悪い引戸の鍵を開け、玄関にはいる。長いこと空気が動いていない臭いがした。 「まずは部屋の空気を入れ換えよう」 「わかった」  部屋に入り、各部屋の窓を開けていく。うっすらと畳の上に埃が積もっている。 「水と電気は使えるようにしてあるから」 「おう。まずは居間を掃除した方が良いな?」 「うん。居間と隣の八畳間優先で」  言わなくても段取りは解るらしく、良輔は天井の埃払いから手を出す。その間に俺は布団を干して風呂掃除からだ。 (今回はマジで楽勝かも)  頼りになる恋人感謝しつつ、俺は袖を捲り上げた。

ともだちにシェアしよう!