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序・早朝
壱
「かかさん、行ってきます」
紫酢漿草 に大待宵草 、車前草 、それから女郎花 。
この夏、主役を飾る花々を抱えた千景 は床に伏せっている母親のお仲 に声をかけた。
「目が見えないお前ばかり働かせていつもすまないねぇ。わたしがこんな体じゃなかったなら、お前に代わって、うんと働くのに……」
床に伏せっているお仲は咳き込みながら申し訳なさそうに謝る。
「気にしないで。ぼくは目が見えないだけで元気なんだから。花売りだってきちんとこなせるよ。ぼくよりも、かかさんの方こそ病気を治さなきゃ」
千景はお仲の丸まった背を撫でる。
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