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序・家族
お仲はそれっきり口を閉ざした。
彼女から聞こえるのは鼻を啜る音ばかりだ。
涙もろい母親のことだ。きっと泣いているに違いない。目が見えない千景でも十八年という年月を共に過ごしている。母親のことならなんだって判る。
「じゃあ、行ってくるね」
千景は母親に優しく声をかけると静かに腰を上げた。
(かかさんのためにも頑張らなきゃ!)
千景は大きく深呼吸をすると、もう一度、「行ってきます」と母親に声をかけ、戸口をくぐった。
千景の父親は二年前に他界している。
父親の死をきっかけに、千景と母親のお仲は一年前からこのだるま長屋で暮らしていた。
家族は母親と自分の二人だけだ。他に頼れる人はいない。
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