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序・この世でたった二人きり

 母と子。この世にたった二人だけになってしまったが、父親に先立たれても寂しいとは思わなかった。  それというのも、父親の久六(きゅうろく)は千景が生まれた時から家に居ることが少なく、酒に博打など、賭け事におぼれていたからだ。  おかげでお仲は久六のために何度泣かされたか知れたものじゃない。その久六がこの世を去った。  ようやく父親から解放されたと思いきや、しかし悪いことは続くものだ。  父親の死の後に残ったのは三十両という莫大な借金ばかりだった。  そしてさらなる不幸が千景を襲う。  久六が去り、ほっとしたからなのか、母親のお仲は体を壊した。以来、彼女はずっと床に伏せったきりだ。  莫大な借金と病弱な母の薬代。そのふたつが千景の華奢な両肩にのしかかる。

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