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序・何も見えない
大工にでもなれば収入はいくらか楽になるのだが、生憎千景は母親似で体の線が細い。それに加えて目も見えないから肉体労働ができず、しかも飛脚のように走り回って仕事することさえもできない。
自分ができることといえば、こうしてずっと軽いものを売り歩くだけだ。
見えないのは将来の行く末も、だ。何もかもが真っ暗闇だった。
しかし自分には病弱な母親がいる。ここで音を上げるわけにはいかない。
千景は唇を噛みしめると弱音を吐きそうになる自分を叱咤した。
蝉が鳴いている。
時刻は日出前だ。
町人の起床は早い。お天道様はやっと顔を出した頃だろう。外はまだ涼しい。けれども日中にもなれば気温は上昇する。
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