5 / 35

序・夏は嫌い

 今日も暑くなりそうだ。  千景は大きなため息をついた。  千景は夏が嫌いだ。  その理由のひとつは、焼け付くようなお天道様の陽の光があるからだ。  おかげで色白な肌は熱を吸収し、長時間お天道様の光に当たったことで赤くなる。けれどもそこまでで、焼けることなく薄皮がめくれてまた白に戻るのだ。  骨ばかりが目立つ細い体は軟弱だ。その上白い肌のおかげで過去に女子(おなご)のようだと揶揄(からか)われたことがある。今は流石にそういったことはないが、過去の思い出が今も根深く残っていた。  そして、夏が嫌いな理由のもうひとつは、生まれた時から目が見えないせいで花火を見たことがないのだ。  夏になると打ち上げ花火が大空に上がり、大輪の花を咲かせるという。

ともだちにシェアしよう!