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序・千景が好きなもの

 ……はあ。  千景の唇からは落胆のため息が出るばかりだ。  最近、一人になるとため息ばかりついている気がする。  しかしそれも無理はない。  父親に裏切られ、借金があるばかりだ。  病気を患っているお仲の前で気落ちした姿を見せられない。千景は健気にもどうにか踏ん張っているものの、だからこそとでも言えばいいのか。一人になると気分はずっと憂うつになる。  ……はあ。  千景がもう一度ため息をつくと、両手に抱えている花々が揺れた。  自分もこの花々のように美しく咲き誇りたい。  千景は花弁に頬を擦り寄せ、彼らの香りを鼻孔に入れた。  千景は花が好きだ。  こうして香りを楽しんでいると、瞼の裏には大きな大地が広がり、色とりどりの花々が咲き誇る姿が想像できる。  おかげで気分はいくらか落ち着いた。

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