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破・虎次郎の人柄
参
虎次郎が手伝ってくれるおかげでここのところ花の売れ行きは好調だ。彼は話術に長けていて、人好のする人間だった。
――いや、そればかりではない。彼はどうやら相当な美形らしい。
千景は生まれつき盲目だ。目が見えない分、他人の心情を声音で理解できる。
虎次郎の周りには年若い女子ばかりが群がってくるし、何より彼女たちが虎次郎と話す口調は一段と女性的で柔らかだった。
売り上げが上がって嬉しい筈なのに、なぜだろう。千景は虎次郎が楽しそうに話すその姿が気にくわない。胸の中にどす黒い塊のようなものが現れるのだ。
もちろん、虎次郎と二人の時は黒い塊はない。心が弾み、楽しい。しかし女子のお客が虎次郎と話していると千景の胸がもやもやするのだ。
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