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承・増えた願いごと
虎次郎とは会ったばかりだ。しかしおかしなことに彼と会うのが初めてではないような気さえする。
だからだろう。これまで誰にも話したことがなかった夢をついうっかり語ってしまった。
口を滑らせた千景の夢を、けれども虎次郎は笑わなかった。彼は頷き返してくれる。
千景は、自分の戯れ言を小馬鹿にしない虎次郎に好感を覚えた。
――その日から、虎次郎は花売りの手伝いをしてくれるようになった。
大身な旗本の家柄なのに少しも偉そばったところがなく、気さくで優しい。
ことあるごとに千景の足を気遣ってくれる。その虎次郎と毎朝こうして一緒にいられることが嬉しい。
そして千景は虎次郎を知れば知る分、彼の顔をこの目で見てみたいと思うようになっていた。
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