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承・お天道様の匂いがする背中
「申し訳ございません。食べ物もやっとどうにか用意できる程度で……」
「父親は?」
「他界しました。博打と酒におぼれて、借金ばかりが残っているんです」
「そうか、悪かった。聞いちゃいけないことだったかな」
「いえ、いいんです。ふっきれましたから」
(お武家さんなのにヘンなの。町人に謝るなんて)
「そういや、お前の名前、聞いてなかったな。おれは虎次郎 。旗本の四男坊なんだ」
「千景です」
「そうか、いい名だな」
虎次郎が何かを話す度、背中から振動が伝わって心地好い。
(背中、お天道様の匂いがする。あたたかい)
「虎次郎様、大空に上がる花火ってさぞや綺麗なんでしょうね。一度でいいから見てみたい。それで目が見えるようになったら、大好きなお花に囲まれて暮らすのがぼくの夢なんです」
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