30 / 35
天・治療
四
「さあ、ゆっくり目を開けてください」
先生に優しく促され、千景は瞼を開ける。すると間もなくしてぼやけていた視界はやがて焦点が合う。
「千景……」
目の前には痩せ細った女性がいる。この優しくあたたかな声には聞き覚えがある。
「かか、さんですか?」
「千景……ああ、目が見えるのね。先生、ありがとうございます、ありがとうございます」
感動のあまり泣き崩れるお仲を、助士を務めた女性が宥めている。
「千景、おれが判るか?」
母親に続いて千景に声を掛けたのは、一人の青年だった。
この声には聞き覚えがある。視界を上げる。年の頃なら二十五あたり。肩までの髪を後ろで結っている。背の高い、涼やかな双眸をしたこの男はもしや――。
ともだちにシェアしよう!