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第1話
午前六時。
つい先ほどまでたむろっていた不良仲間と解散して帰路についた俺・瀬咲 朔は、家に続く坂道を上りながら空を見上げ、煌々と差す朝日のその眩しさに思わず溜息が溢れた。
虚しい……そう感じた。
決まって朝帰りする日の帰路は、モヤモヤとした暗い霧が心に立ち込める。
仲間とつるんでいる間はまだ良かった。
バカ騒ぎしている喧騒の中で、現実逃避ができているからだ。
だけど一人になると、嫌でも思考回路は現実に戻る。
家の門を開けながら、最後に導尿した時間を思い出していた。
たしか…家を出る前だから、午後十時だった。
今は六時過ぎだから、既に八時間も経っている。
俺は、排泄障害で自己導尿をしないと排尿ができない。
排便も同じくだ。
基本四時間置きに導尿していた。
寝ている間は、自己導尿できないから留置カテーテルを入れている。
生まれた時に小腸が壊死していて、小腸の全摘出を受け、第十二指腸の壊死していない半分の長さと、大腸を繋げるという大手術だった。
その後遺症で排泄障害を患ったのだ。
普段は自力で排泄できないが、熱が出ている時は筋肉が緩和して、かってに漏れ出てくる事もある。
この厄介なのが…俺の病気だ。
静かに玄関扉を開け家に入ると、洗濯機の回る音や人の動く気配があって、母さんや社会人のアニキ達は起きているようだった。
トイレに行く前に手を洗おうと洗面所に向かうと、ネクタイを結びながら長男の蒼が顔を出した。
パリッと糊の効いたワイシャツに紺のストライプ柄のネクタイをした蒼は、広告会社で働くサラリーマンだ。
「おはよう朔。…また朝帰りか。導尿はしたのか?」
「…うっさいな。今するとこ。」
「はいはい…。ごめんごめん。」
平謝りしながら洗面台を変わってくれた蒼は、ワックスを手に取り髪のセットを始めた。
トイレ横にある棚の引き出しから、滅菌されたカテーテルと、消毒液の浸った脱脂綿の個包装と、潤滑剤のジェルを一通り取りトイレに入った。
あの棚には、自己導尿用の短いカテーテルと、留置用の長いカテーテルと尿を溜めるパック。
それから洗腸用の物品などのストックを置いている。
手を綺麗に消毒し、だらしなく着ていた学ランのベルトのバックルを外し、ズボンとパンツを下げた。
先まですっぽりと被った包皮を根元にずり下げ、脱脂綿の封を切り、ヒタヒタに消毒液を吸った脱脂綿で、尿道口を拭うとカテーテルの袋を開いた。
左右に開いてジェルを上から掛けると、管が半分袋に入った状態で尿道内に入れていく。
若干の異物感は否めないが、痛みは感じない。
最初こそ痛くて自分でするのは嫌だったが、もう慣れたもんだ。
膀胱まで到達した事を報せるツンとした微かな痛みを感じ、もう少し奥にカテーテルを進めて行くと、管を通って濃い黄褐色の液体が流れ出た。
パンパンに張っていた下腹部の張りが和らぎ、尿が出なくなった所で、少しだけカテーテルを抜くと、まだ膀胱内に残っていた尿が僅かに出てきた。
完全に尿が出なくなり、ようやくカテーテルを尿道内から抜き取った。
使用済みのカテーテルを専用の容器に入れて片付けた。
このカテーテルは、学校に持って行って再度使うのだ。
容器には消毒液が入っていて、今日一日このカテーテルを繰り返し使うことができるようになっている。
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