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第41話

「金髪のにぃちゃんだ!にぃちゃんもお泊まりしてるの?」 ソファーに浅く座って居ると膝に手をつき顔を覗き込んで来た小学校低学年くらいの小さな男の子。 「朔の知り合い?」 「…さぁ?…お前名前は?」 「木下 莉久!前にトレーニングルームでお話した。」 「あぁ…あん時の。リクか。」 「うん!にぃちゃん、ジュース飲んでるの?それバナナ味?」 「よく分かったな。お前も飲む?」 「朔、あげちゃ駄目だよ。」 「…冗談だって。それよりリクは自己導尿できるようになったのか?」 「……できない。まっちゃん怖いし、カテーテル痛いし…。」 「その内できるようになるから大丈夫だって。リクはトレーニングで入院してんの?」 「違うよ。おしっこをどれくらい溜められるか検査したりするからお泊まりしてたの。 でももうお母さん迎えに来たら帰るよ。」 「…ふーん。」 「ねぇ、リクの言う検査って朔もした事あるの?」 「膀胱造形検査ね。あるよ。たぶんそれも含めてまた検査すると思う。」 「莉久くん、お母さん迎えに来たよー!」 看護師に呼ばれて軽やかにスキップをしながら、リクは帰って行った。 「俺も帰りてぇ…。」 「同感。朔はまだ入院続きそう?」 「とりあえず1週間。秦先生がガッツリ治療するって意気込んでた。」 「ふふっ。朔大変だねぇ。そういえばさ、今朝から東雲先生に研修医の真鍋先生が着いて回ってたんだ。なんか厄介事が起きそうだから、極力近寄らないようにしてるんだけどね。」 「…それ秦先生のとこにも風見って先生がいたぞ。もうすでに俺はその厄介事に巻き込まれた気もするけど…。」 たぶん夕陽の言う厄介事って、研修医に経験を積ませるために診察や処置にメインで着くやつだと思う。 俺も長い間病院に世話になってるけど、研修医に関わるのはこれで2回目だ。 夕陽は、入院する事も多いから、今までにも何回かあったのかもしれない。 お昼を目前に小児科病棟は、少し騒がしくなって来た。 それもそのはず、小中学生が院内学級から戻って来る時間だ。 「晴壱く〜ん、晴壱くん忘れ物だよ。」 「ぁ!りんご先生ありがとう。」 「いいえー。宿題ちゃんとやってね。」 懐かしい呼び名に声が聞こえた病室の方を見た。 りんご先生と呼ばれた初老の女性は、病室から出てくると俺と夕陽の存在に気づきソファーに近づいて来た。 「夕陽くんと朔くんじゃない。大きくなってぇ。」 「りんご先生久しぶり。」 「…ッす。」 りんご先生こと凛子先生は、俺と夕陽が小学生の時に勉強を教えて貰っていた院内学級の教師だ。 俺は小学5年生の時に手術を控えて、半年間入院する事になり院内学級に編入した。 その時に勉強を教えて貰っていたのがりんご先生だった。 頬がりんごみたいに赤いのと、凛子をもじってりんご先生だと自分で言っていた。 夕陽との出会いは、2歳か3歳くらいの時だったかな。 その頃の俺は、導尿されるのも…洗腸されるのも…泣いて嫌がり看護師に抑えられてしていたと母さんに聞いた。 そんな俺と同室になった夕陽が、処置を受ける俺の傍でご機嫌取りをしてくれた事がきっかけで仲良くなったらしい。 正直そんな小さい頃の事なんか覚えてないから、同い年で気が合う良い友人って感覚だけど。 ぁ、それから夕陽の双子の片割れの朝陽ともよく遊んでいたな…。 今は何してんのか知らねぇけど。 懐かしいやつって言ったら他にもみっくんとかも居たな。 「なぁ、夕陽。みっくんって最近会ったか?」 「みっくん?会ったよ。夏の始まりくらいだったと思うけど。」 「ふーん、俺も会いてぇな。」 「その内会えると思うよ。それより連絡してみたら?」 「…ぃや、そこまでする気はねぇけど。懐かしいやつ思い出してたら会いたくなっただけ。」 病院に居ると沢山の出会いもあるけど、別れも多くあった。 嬉しい別れや悲しい別れ、生と深く関係する場所だからこそ死も紙一重のように存在しているのも事実だ。

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