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番外編 結婚式のブーケ
冒険者カインは、フェリックスとマコトの式の様子を参列席からじっと見ていた。
マコトが結婚してしまった――――
ずっとマコトのことが好きだった。
けれど飲み屋でマコトの無意識の想いを聞いたときに、マコトがフェリックスとやらに向ける想いは自分の想いと一緒だと思った。
思ってしまうと、もう駄目だった。馬鹿だと思いながらも、マコトの恋を応援せずにはいられなかった。
想いを自覚したマコトはすんなりと恋を成就させ、遂には結婚してしまった。
今、目の前で永遠の愛を誓っている。
もう望みはないのだ、この恋心は捨てなければ。
フェリックスとかいう奴はマコトが誘拐された時にうじうじしていやがったのが気に食わないが、それでもきちんとマコトを助け出したのだ。自分ができたことといえば、奴を焚きつけることぐらいだった。
二人が指輪を交換する様子も、キスを交わす様も後方の席でじっと見ていた。
恋心を諦めるために、目に焼きつけるのだ。いかにマコトが幸せそうかを。
涙を流している参列客はカインだけではなかった。
ただ、カインだけが流している涙の意味が違った。
結婚式は進んでいき、フェリックスとマコトの二人はチャペルの外へと出た。
参列客たちもぞろぞろとチャペルの外へと向かう。
青空の下、マコトたちが微笑み合っているのをカインは遠巻きに眺めていた。
こんな自分に話しかけてくる人物もいないだろう。
そう思っていたのに、予想はあっさりと裏切られて爽やかな声が耳に届いた。
「やあ、カインくん。どうしたのかな、浮かない顔に見えるよ」
聞き間違いようがない。
振り返ると、やはい声の主はグランだった。
今では知っている。
マコトが結婚した相手が王子だということ。
そして――――目の前のコイツが現国王グラントリアスであるということを。
出会った時は王太子で、前国王が死んでから後を継いだのだ。
「こんなめでたい日なのに、君には憂えることがあるのかな?」
パチン、とグラントリアスが指を鳴らした。
途端に周囲の音が届きづらくなり、隔絶された感覚に包み込まれた。防音の魔術を指先一つで行使したのだ。
グラントリアスは自分と内緒話をしたいようだ。
「オレなんかに構っている暇ないだろ、国王陛下」
カインはつっけんどんに言った。
彼が国王であると知った今も、前と同じ態度のままだった。
とうの昔に百も千も無礼な言葉を吐いてしまった。今さらどう敬意を示せというのか。
「私はもう充分に二人に祝いの言葉を贈ったからね。もういいんだ。それよりも君のことが気にかかって」
(偽善者め、何が『気にかかって』だ。オレのことなんてどうでもいい癖に)
心の中で呟いてみたが、嬉しく思うのを止められなかった――――惹かれてはいけないのに。
「君の悲しみの理由を教えてはくれないかい?」
「別に悲しいことなんて一つもねえよ」
カインはそっぽを向いた。
「もしかして――――失恋かい?」
彼の問いに、心臓が凍った。
自分の恋心は、そんなにもわかりやすいものだったろうか。
「な……っ、そんなわけないだろ!」
精一杯の虚勢を張った。
だが強く否定すればするほど自分の恋心は明白なものとなってしまうだろう。
「やっぱり、そうなんだね」
グラントリアスはこくりと頷いた。
嗚呼、想いがバレてしまった――――
「君は……フェリックスのことが好きだったんだね」
時が止まったような気がした。
今、なんて言ったこいつ? と、カインは耳を疑った。
「なんであんなへっぽこ野郎を好きにならなきゃいけねーんだよ、オレが好きだったのはマコトだマコト!」
防音の魔術が張られていてよかった、と感謝した。
そうでなければ、周囲の視線が一斉にこちらを向いていただろう。
「へ? マコトくん?」
「そうだよ悪いか、へん!」
あんまりにも間抜けなことを言うので、自分から恋心をバラしてしまった。それもこれもすべて、グラントリアスのせいだ。
「そうか、マコト君の方だったのか……てっきり男らしいのが好みなのかと」
「アレのどこが男らしいんだ!」
カインはふんと鼻を鳴らした。
フェリックスなどよりも、自分の方がよほど男らしいと考えていた。
「男らしくなくってもいいのなら――――私にも望みはあると思っていいのかな?」
「へ――――?」
すい、と腰を抱き寄せられる。
気がつけばグラントリアスの顔が目の前にあって……
二人の間に割り込むように、ぽんと何かが落っこちてきた。
それは何本もの花を纏めたブーケだった。
二人は思わず距離を取る。
「なんだこれ?」
きょとんとブーケを拾い上げた。
途端に大きな歓声が聞こえてきた。防音の魔術が解けたのだ。
「おめでとう!」
人々は口々にカインを祝っている。
それが何故なのかわからず、困惑のままに目の前のグラントリアスを見つめる。
「結婚式は初めてかな? それはマコトくんが投げたのだろうね。結婚する人が投げたブーケをキャッチできると、次に結婚できるという伝説があるんだよ」
「け、結婚!?」
自分にまったく縁のない言葉に吃驚仰天する。
結婚式に参加したのだって、今日が初めてなのに。
「あくまでも伝説だよ、伝説。でも……そうなるといいね」
にこにこと微笑む彼の笑顔が憎らしくて、鋭く睨みつけた。
やっぱり、変な奴。マコトよりももっと変だ。
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