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全く安心できない
「あ、わ、わ……っ、お、桜和っ!」
しどろもどろになって叫ぶ俺を完全にスルーした桜和は器用に片手で鞄から鍵を取り出すと、ドアを開けてどんどん先に進んでいく。慌てて脱いだせいで靴はドアに当たったりひっくり返ったりしまった。
転びそうになりながら腕を引かれて階段を登る。フローリングが滑って焦った。
バタン! と乱暴な動作で部屋のドアを開けると、桜和は俺を部屋に押し込んで、また乱雑にドアを閉めた。
「──っはあぁぁ……っ」
……そのままドアを背に座り込んだ。
一方の俺といえば、押し込まれた衝撃でこけて座り込んでいた。
「もー……ホント焦った」
「……?」
「神楽があいつらと一緒にいるの見て、震えるくらい焦った」
「!?」
震える!?
「寿命五年くらい縮まった思いだよ」
真面目なトーンでそんなこと言うから、からかってるのか本当にそう思ったのかよく分からない。……五分五分な気がする。
「もう……特に兄ちゃんだよ。一年さんは伊吹とか真澄ちゃんのお陰で少し丸くなったから置いておくとして、兄ちゃんはそういうのないんだから。俺、神楽が怪我した時に言ったよね? アイツは俺のもの大好きなの」
「や、でも最近なんの音沙汰もなかったし、飽きたかなと……」
「だからそれが危ないんだって」
座り込んだままの俺の腕を引いて、桜和は膝の上に俺を向かい合わせで乗せた。
「前にアイツ本人が言ってたでしょ。フラフラしてたら喰われるよ」
それは……不安定な気持ちを喰われるってだけじゃなかったか?
「言っとくけど、アイツは言ったことだけをやる様な忠実な人間じゃないからね。言わなかったことも、約束したことも、勝手にやるし、約束は破る」
だから、と桜和は続けた。
「いくら俺が取られないように気を張っていても、神楽がそんなんじゃ意味ない」
きゅ、と左手を少し冷たい手と恋人繋ぎみたいにされる。
「……本当に、怖かったんだから」
空いた手でぎゅうっと抱き締められた。
そっと繋がれていない右手で桜和の背中に手を回すと、桜和は驚いた顔で俺を見上げた。あ、桜和に見上げられるって、なんか新鮮だ。
「珍しいね神楽。神楽が自分からそういうことしてくるなんて」
「……まぁ」
煮えきらない俺の返事に首を傾げつつ、桜和は嬉しそうに笑った。
「取り敢えず、アイツら二人には不用意に近づかないこと。いい?」
珍しく真面目な顔の桜和に、コクリと頷くと「いい子」と言われて頭を撫でられた。
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