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目は口ほどに
「ねぇ、神楽。こういうシチュエーションだったらさ、神楽はちょっとくらい俺のこと意識してくれる?」
声は至極真っ当。両手にはならないが数には加えられるかもしれない。
「何をいきなり……どういう意味だよ」
「イキナリじゃないよ。それに、意味はそのまんま。こういう、さ?」
するり、いつの間にか近くまで来たらしい桜和に頬を撫でられる。
「……二人っきりで暗闇の狭い部屋っていうシチュエーションだったら神楽は少しくらい俺のこと意識してくれるのかなーって」
「……」
「……何も言えない?」
──まあそうだよね。
少しづつ闇に目が慣れてくると、まずは眼前の桜和の制服が目に入った。顔を上げればうっすらながらも小さく整った顔が見える。
眼鏡で矯正された視力を更に上げようと目を細めると、見計らったように眼鏡を取り上げられた。視界は再び闇に沈む。
視界を確保する事を大人しく諦め、やっとのことで口を開く。いつの間にか乾いていたのか、唇にピッと微かな痛みを感じる。
「……それ、は」
「うん?」
「『恋愛感情としてだ』と受け取っていいのか?」
「そうだね」
再びかけられた眼鏡は少しだけ視界を鮮やかにした。
「……おう」
「あーダメダメ」
「どうせ今、マトモな事言えないでしょ?」
諦めたような声。少し、拒絶するような。
「別に俺は言えたら満足だからさ。それ以上は求めないよ。──まあ、強いて言うなら、『これまで通りの関係を保って欲しい』かな」
「………」
開きかけた口はすっと無意識に閉じられた。
苦しかった。
ほぼ直接、「返事をするな」と拒否されたのだ。
そりゃあ、きっと俺はこいつ──西条 桜和の希望に沿った答えは出せないのだろう。
けれども、きちんとその辺には答えを出したかったのだ。
なにより、「それ以上は求めない」と言った時の桜和の表情は、この暗闇でも明確に──苦しげに歪んでいたのだ。
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