6 / 103

悪戯なんかじゃない

「最悪、だ……」  まさか、生徒会室に閉じ込められるとは… 「あー……この教室、ドアに窓ないからなぁ」 後ろで諦めたようにため息をつく桜和。 「明かり漏れなかったんだろうね。鍵の管理は会長が、スペアキーは職員が管理するから『掛け忘れた』で終わるのがオチだし」  ガチャガチャと何度ひねってもドアは開かない。 「大体この教室はなんで内側から鍵が開けられないんだよ! おかしいだろ!」 「昔、職務放ったらかしでばっくれようとする生徒会役員がいて、その対策らしいけど?」 「前代役員のアホ……」  頭が痛くなる。一体、そんなやつがどうやって選挙に立候補したんだ。  選挙期間前に先生と相談する時間はあった筈なのに。止めなかったのかバカ教師。  などと心の中で愚痴を言いながら渋々パイプ椅子に座り、どうしようかと思案していると、桜和が目を少し輝かせて笑みを浮かべた。 「おい……何を企んでいる」  それはそれは──『イイ笑顔』で。 「んー? いや、ちょっとね」  そう言ってドア付近まで静かに歩み寄っていく。笑顔からして、ドアを開ける手段が思いついたという訳ではないのだろう。  ──パチッ  小さな音と共に暗転する視界。本日二度目の展開。  一瞬で切り替わった視界は黒に塗りつぶされて何も見えない。 「……桜和、遊ぶな」 「遊んでないよ〜? 至極真っ当に真面目だよ?」  返ってくるのはふざけた声音。どこが真面目だ。 「お前が真面目なところなんて片手で数えられる程しか見たことがないな」 「じゃあ今ので両手分になった?」 「なるか阿呆」  ノーカウントだ。 「それよりさっさと電気を点けろ…今日は曇りだから月明かりも入らなくて暗い」 「やーだ♡」 「……」  語尾に付けられたであろうハートマークが苛立ちを募らせる。  しかしそれは、一瞬のことだった。 「俺が今、電気を消したのは目的があるから」  ああ、今。月が出ていたなら良かったのに。窓のないこの教室じゃ、ただの闇が広がるだけだ。 「折角のチャンスを逃したくない。こんな時じゃないと、伝えられない」  暗闇に溶けて広がる桜和の言葉は聞いたことがないほど切なげに揺れていた。 「今、ここは生徒会室だけど、今だけは、会長のこと、神楽って呼ぶ。 ねぇ、神楽。こういうシチュエーションだったらさ、神楽はちょっとくらい俺のこと意識してくれる?」

ともだちにシェアしよう!