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悪癖
「甘い甘い。そして神楽くんは話題転換へったくそだね」
「ほっといて下さい……」
「まぁ、そういうちょっと不器用なところが堪んないんだろうけど……ねぇ、桜和?」
和音さんがそう言って俺のちょっと後ろへ視線を向けた瞬間、聞こえる音が全てくぐもった。
「そうだよ。だから兄ちゃん、ちょっかい出すなって何回言ったら分かるわけ?」
「桜和が神楽くんを好きな限り一生分かんないかなぁ。っていうか、桜和が何かを好きな限り、分かんない」
昨日は後ろから抱きしめられて、今日は後ろから耳を塞がれて、連日の過剰な接触に心臓が壊れそうになる。
ばくばくと胸が鳴って気持ち悪くなってしまうくらい。でも嫌な気持ち悪さじゃない。気持ち悪いのは確かだけど、これが恋してるって事なのかって、実感できる感じ。キライじゃない。
「……神楽くんのその反応は、何かな」
「へっ……?」
無理矢理耳から桜和の手を引き剥がして顔を上げると、全部見通そうとしているような目で和音さんが見ていた。
「ただの戸惑い? 演技? それとも……もう桜和を」
「兄ちゃん」
言いかけた和音さんの言葉を桜和の声が遮る。
その言葉。和音さんが言おうとした言葉。その先は──…………。
「兄ちゃんの悪い癖だよ。相手の心を掻き回して散々荒らしてほったらかす」
「人聞き悪いなぁ。うん、悪い……けどその通り。俺はそういう悪癖がある」
クスクスと、愉しそうに笑う和音さん。
「気を付けてね神楽くん。その安定しない気持ちはあっという間に俺が食べちゃうかもしれないから」
ばくん、と手を動かしながらにこやかに言うと「ばいばーい」と言って職員室に入っていった。
「何しに来たのあいつ……」
その日、生徒会室は波が荒れることもなく平和だった。
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