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嬉し涙
家に帰って、玄関を抜けて、キッチンの脇を通ってすぐに2階に上がろうとした。だけど、母さんに引き止められた。
「神楽、顔が赤いわ。なんだかボーッとしているし……風邪でも引いた?」
「だ、大丈夫。寒かっただけ」
「そう? お腹空いてるだろうけど、先にお風呂入って体温めてきなさい。本当に風邪引いちゃうかもしれないわ」
頷いて足を庇いながら急いで階段を上がる。
部屋に駆け込んだところで、足から力が抜けて床に座り込んだ。
「……ふ、ぇ………」
コートがポタポタと溢れる雫で濡れていく。目もとをゴシゴシと擦るけど、涙は止まらない。
眼鏡がカシャンと軽い音を立てて床に落ちた。
『雪に誓ってみる?』
俺が告白した後、桜和はそう言ってとても嬉しそうに微笑んだ。
『俺と、神楽はここに愛を誓います、ってさ』
馬鹿みたいに陳腐で子供臭いお遊びみたいなことだったけど、それがとても嬉しくて。
涙が止まらない。
胸がきゅうっと痺れる。涙は相変わらず止まらないけれど、口元は緩んで、あまりにも締まりのない顔になってしまったから暫く下に降りられなかった。
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