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愛しい

「伊吹」 「な、んですか……っ!?」  ソファーに腰掛けて、気まずい沈黙を続けている俺たち。閑さんは痺れを切らしたらしく、俺の肩を引いた。  そっと、壊れ物を扱うように抱き締められて、いつもの強引さがないことにとても戸惑った。 「……ごめんね……」  消え入りそうなその声を、彼のものだと一瞬信じられなかったのは仕方ないと思う。 「ずっとずっと、置いてきぼりにしてごめん」 「置いてきぼり……?」  閑さんの背中に恐る恐る手を回すと、閑さんの腕の力が強まった。 「伊吹の身体さえ、ものにできれば安心だと思ってたんだ。今までの奴らもそうだった。……だけど、きっとそこに肉欲は存在しても、プラトニックみたいな心の繋がりはなかった」 「…………」 「心のどこかで、虚しさを感じていたんだ。俺は、伊吹とカラダだけじゃない、心の繋がりが欲しかった」  驚いた。閑さんも、俺と同じだったんだ。  ──想いなんてカケラもなければ、想われてすらいない。  ──なんて虚しい。 「……っ」  ボロッと、大粒の涙が零れた。 「い、伊吹……? 泣かないで、ごめん、本当に……ごめん」  嗚咽が漏れて上手く喋れないから、必死に首を振る。謝らないで、閑さん。 「ょ、よ……か、た……っ」  貴方の想いが俺と一緒で、本当に良かった。  ちゃんと想われていた。想っていた。貴方は俺を、俺は貴方を。きちんと愛していた。愛しく思っていた。 「すき、です。閑さん……っだいすき、ずっと、ずっと一緒に……、いたい、です」 「……俺も、だよォ。伊吹」  少し、いつもの調子に戻った閑さんは、俺の額にそっとキスをした。

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