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身から出た錆

「連れないなァ、伊吹」  照れてんの?と、男は軽い調子で言った。  一方、壁際に追い詰められた月詠は血の気を失った蒼白な顔でどうにか相手を睨んでいる。  見るに耐えなくて、俺は再び口を開いた。 「……部外者なら、お帰りいただきたいのですが」 「部外者ァ?」  なわけないじゃーん! と耳障りに笑いながらシズカサンはこっちを向いた。 「俺はァ、そこにいる副会長くんのお兄さんの後輩だよ。ここの卒業生で、今一浪して大2なの」  ということは、21歳。俺たちとは3歳差。接点はほぼ無い筈。 「そーんな難しい顔するもんじゃないって! それよりぃ」  クルリ、今度は体ごと向き直って、俺の顔を上から覗き込むようにした。 「その髪、キレイだねぇ?」 「──っ!」  ゾワッと、肌が粟立った。それは、その言葉は。まだ、桜和以外に言われるのは慣れてなくて。ダメで。  何より、その目が──。 「…いい加減にしてもらえますか、一年(ひととせ)さん」  静かにそう言った桜和は、カタカタと震えている俺を自分の腕の中に閉じ込め、右手で俺の目を隠してくれた。 「ヒトトセサン、なんて他人行儀だなァ。閑でいいって言ったろー?」 「生憎、一年さんとそこまで仲良しになる自信ないんで」  そう切り捨てると、桜和は俺を佐神に預けて一歩前に出た。 「……大丈夫デスか、神楽生徒会長」  震えが止まらなかったけど、何とか頷き返す。俺に触れないようにしてくれているのが今は助かった。 「一年さん、出ていってください。ここ、俺の大切な場所なんで、いつもみたいにぶっ壊されちゃ困るんです」 「みんな冷たいなぁ……じゃあさぁ、伊吹借りてもいい?」 「帰ってください」  肩に置かれた手を、今度は月詠は振り払わなかった。 「……いいですよ、さっさと来てください、閑さん」 「伊吹」 「大丈夫。これは、身から出た錆……因果応報ってやつだから」  そう言うと、月詠はヒトトセシズカの手を引っ張って生徒会室を出ていってしまった。  ドアの向こうに奇抜なオレンジの頭が消える寸前、男の口がつり上がっているのが見えた。 「……大丈夫、神楽?」 「……ん………」  あの、まとわりつく様な視線が、声が、中学までのあいつらにそっくりで。  気を抜けば、今すぐにでも崩れ落ちそうだ。  ヒトトセシズカと一緒に生徒会室を出ていった月詠が気がかりで、俺はどうしようもない気分にかられていた。

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