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第2の嵐

 その日の放課後、  ──コンコン  生徒会室の扉にノックがかかってメンバー全員で顔を見合わせる。今日はもう既に和音さんは来てて、つい5分くらい前に帰ったばかりだ。 「忘れ物デスかね」と言って佐神が立ち上がる。珍しく、月詠は起きていた。 「………」 「月詠?」  いつになく硬い表情でドアを見つめる月詠。話しかけても返事はなかった。 「はーい……どちら様デスか?」  ガチャ、とドアを開けて、佐神は表情を営業スマイルに切り替えた。……和音さんでも在校生でも、ましてや教師でもない……?  チラリ、内開きに開いたドアから見えた髪の毛はメープルシロップみたいなオレンジ色。  生徒会か何かやってた卒業生? と思っていたら、目の前に猫背で座っていた月詠が椅子をぶっ倒す勢いで立ち上がった。 「何しに……来たんですか」 「あーいたァ、伊吹」 「帰れ!!」  普段からあまり喋らない月詠の叫び声にビクッと肩が揺れる。当の月詠はと言うと、長い前髪の下で顔を青ざめさせていた。 「ひどいじゃーん、俺に会いたくなかったの?」 「誰が……! いいから帰れ! 入ってくるな!!」  警戒心を丸出しにして、猫みたいに威嚇する月詠。 「……あの」 「んー?」  恐る恐る声をかけると、月詠の方へ迫りながら、首だけグリンッと傾けてこちらを見た。一見すればただのホラー映画だ。 「なぁにー? ていうか、誰ー?」  お前こそ誰だ、と言いたい気持ちはぐっと堪えた。 「……この学校の現生徒会長です。失礼ですが、貴方は月詠とどのようなご関係ですか?」 「んー俺ー? 俺はねぇー……伊吹の彼氏」 「ふざけんな!! 誰がアンタなんか彼氏にするか!」 「冷たいなぁ〜。あ、それより伊吹、前から思ってたけどまだその長い前髪続けてんの? 何なら俺が切ってあげようか。曲がりなりにも美容師志望だよォ?」 「結構です。触らないでください、近づかないでください。即刻帰ってください」  肩を組もうとのしかかる男を全力で振り払って睨みつける月詠。本気で大嫌いな相手らしい。 「やめてください、(しずか)さん!」  シズカサン。月詠は男のことを確かにそう呼んだ。

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