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第一章 愛人をしています
「あいにく只今、満席でございまして」
「えっ、そうなの?」
風野 竜也(かぜの たつや)は、前に乗り出して店内を見渡した。
ここは、竜也のお気に入りのカフェだ。
今日は仕事で少し疲れたので、コーヒーでリフレッシュしてから帰ろうと思ったのだが。
聞くと、SNSでこの店が紹介されて、一気に客が増えたらしい。
「申し訳ございません。相席なら、ご案内できるのですが」
「仕方がないね。お願いします」
ウエイターにいざなわれ店内に進み、竜也は窓際の席を案内された。
そして、先に掛けている客を見ると、一転してこの幸運を喜んだ。
(あの子だ!)
それは、最近よくこのカフェで姿を見る、少年だった。
時折店内で一緒になる、ミステリアスな子。
少し物憂げな、陰のある横顔も素敵だ。
(これを機に、仲良くなれるといいな)
そんなことを考えながら、竜也は席に掛けた。
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