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5日目⑫
まず、コースの最初の一皿が供された。
それはこの洋食店の名物とも言えるトマトサラダで、丸ごと1個のトマトを湯剥きして、ツナと玉ネギを和えた上に乗せてあるだけのものだった。もちろん、トマトの上にはドレッシングが掛かっているが、何よりも丸ごとトマトの見た目のインパクトが大きい。
トマトサラダと言えば、スライスしたトマトが並べられていると思っていた煜瑾は、この意外な形が気になっていた。
「このトマトが、美味しいんだよ」
小敏に言われるまで、煜瑾は丸いトマトの形状が美しいと、じっと眺めていたのだった。
「さあ、食べよう!」
「はい」
期待たっぷりに煜瑾はトマトにナイフを入れる。そしてジューシーで柔らかなトマトを、優雅なマナーで煜瑾は口に運んだ。
「ん!」
口に含んだまま、煜瑾は瞳を輝かせて小敏を見た。
「美味しい?」
小敏の問いに、煜瑾は慌てて咀嚼し、飲み込んで、ようやく返事をすることができた。
「とっても美味しいです。爽やかで、甘くて、まるでフルーツのようですね」
「ほら~、ボク、絶対これは煜瑾が好きだと思ってたんだ~」
2人は無邪気な笑顔を交わし、心行くまで京都の老舗洋食を堪能した。
***
お腹いっぱいになり、たくさんの買物で増えた荷物を両手に持った2人は、四条河原町の百貨店を後にした。
まだまだ賑やかな河原町通りを北に向かって歩きながら、小敏と煜瑾はこの旅の思い出を語り合っていた。
「とっても有意義な旅行でした。神社も、美術館も素晴らしかったし、紅葉のトンネルお見事でした。美味しい物をいっぱい食べられたし、キレイな物もいっぱい見られたし、珍しい体験も、お買い物もいっぱいできて楽しかったです」
活き活きと語る煜瑾が、小敏にも嬉しかった。
「煜瑾に喜んでもらえたら、本当にボクも嬉しいよ」
小敏が、誰からも好かれるような包容力のある、優しい笑顔を浮かべた。
「今回の旅行は、小敏のおかげで、とっても楽しかったです。本当にありがとう。ずっと、文維の近くに居られたのも安心でしたし、嬉しかったのです。本当に、本当に、素晴らしい旅となりました」
純粋な煜瑾は、心から親友に感謝をした。
生まれて初めて、自分の足で、自分の行きたい場所へ行き、選び抜かれた美味しい物を食べ、心から笑い、感動し、大げさではあるけれど人生を満喫することができた。
「また、来ようね」
小敏がそう言うと、煜瑾は満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「ぜひ、また来たいです!」
心の清らかな天使のような煜瑾の望みであれば、必ず叶えてあげたいと思った小敏だった。
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