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第1話

ケイはオメガだったので、アルファが怖かった。 子供の頃は何も思わなかった。 だって自分はオメガだなんて思わなかったから。 他の少年達と何も変わらなかった。 10才の時の定期の性別検査で、オメガと言われてもピンと来なかった。 本来なら13歳頃にする体内にフェロモンを抑制するカプセルを、10歳で埋め込まれた。 そして、20歳までに番を見つけることを【推奨】された。 オメガの身体に相当な負担になる(なので20歳まで)このカプセルを埋め込む理由はそれ以上にオメガがフェロモンによって傷つけられることがあるからだ、と説明もされた。 番を見つけたなら、番を作ったなら、フェロモンの影響でアルファに傷つけられる可能性はなくなる。 オメガの発情期のフェロモンに耐えられるアルファはいないからだ。 でも番を作れば、アルファを恐れることはない。 番のいるオメガのフェロモンにアルファは反応しなくなる。 ただし、それは番になったアルファは別だが。 番をつくったオメガは、その番のアルファに繋がれる。 つまりアルファは。 アルファという生き物は。 オメガに執着する化け物なのだ。 いくら説明されてもそうとしかケイには思えなかった。 ベータの家庭で生まれた。 オメガやアルファは存在は知っていても、普段交わることはなかった。 アルファやオメガが少ないからだけではない。 何故ならアルファは特権階級だし、ベータの間に生まれたアルファやオメガだと、そうだと分かった時から、ベータとは違う特別な学校に行くからだ。 ベータの社会にいると大人になるまで出会うことはほとんどない。 アルファやオメガは肉体的にも精神的にも根本的にベータやと異なるため、ベータの学校に通うことがない。 アルファに限っては筋力から何からなにまで違う。 何より違うのはその精神面。 幼少期には分からなかった傾向は、アルファの兆候が出た頃から顕著になる。 オメガは男性のように見えても子宮があることや発情等の身体の機能の違いだが(それでもベータとの大きな違いではある)、アルファは根本的に違うのだ。 アルファ同士の闘争ゲームを生きがいにし、独特の精神文化を共有する。 これは、ベータから生まれたアルファでもそうなる。 アルファは。 ベータやオメガとはさらに違う種である、と理解されている。 その特徴の1つに、オメガへの異様な執着がある。 アルファは。 自分のオメガに執着し、絶対に手放さない。 オメガが番になったアルファから逃れるためには死ぬしかないと言われているほどの執着を全てのアルファがみせる。 そして。 この執着は、その執着される相手であるオメガにはないものだ。 執着するものがいても、全員ではない。 そんな話はケイには恐ろしいものでしかなかったし、普通の男の子として今まで育ってきたケイには、お前はアルファとセックスして子供を産むオメガなのだと言われても、受け入れられるわけもなかった。 オメガということが分かった子供達の例に違わず、ケイもカウンセラーを国からつけられたが、ケイにはそれを受け入れるのは難しかった。 カウンセラーは、中学からはアルファやオメガが通う特別な学園に行くことを勧めた。 そして、高校卒業までに番をみつけるのだ。 それを国によって推奨されていた。 もちろん、強制ではない。 だが。 番のいないオメガ、もうフェロモンをコントロールしてくれるカプセルがない大人のオメガは、生き辛い。 抑制剤はあっても、その効き目は個人や体調によるし、とにかく完璧ではない。 大きなリスクを抱えて生きていくことになる。 発情してフェロモンを放てば、抑制剤が効かなければアルファにその場で犯される。 アルファはオメガのフェロモンに逆らえないからだ。 番を作れば、少なくとも番以外のアルファに犯されることはない。 辛い程の発情も番のアルファが鎮めてくれる。 でも。 ケイはアルファなんて絶対に嫌だった。 ケイは中学に上がる時、アルファとオメガのための学校、(「名門校」ではあった。アルファが入学するのだから)を拒否した。 オメガである自分を受け入れられなかったからだ。 オメガは美しくて綺麗だという話だったけど、自分は違うし、そんなものになりたくなかった。 いくらベータ達とは違い強く優秀なアルファに跪かれようと。 アルファとセックスして子供を生む何かになんかなりたくなかった。 だから。 今まで通り同じように生きて行きたかった。 「番を得なければ、大変なんだよ」 学園で大人になるまでに番を見つけるように大人達に諭された。 オメガにはアルファを選ぶ自由がある、嫌な相手は拒否出来るんだ、と。 でも。 嫌だ嫌だと泣いて、身体を衰弱させて死にかけて。 やっと認めてもらえた。 オメガではなく、ベータとして普通の学校に通えるように。 貴重なオメガを死なすより、そちらの方が良いと大人達は判断したのだ。 子供の気持ちはいずれ変わる。 体内に埋め込まれたカプセルで、20歳になるまでの発情は抑えられるのだし、それにベータしかいない学校に一人オメガがいたところで問題はないだろう。 ベータはオメガのフェロモンに反応しないのだから。 気持ちがそのうち変わる、そうなってからアルファに引き合せる方法はいくらでもある。 何より。 嫌がるオメガに何かを強制させることなんて、アルファが許さない。 アルファとは、誇り高い生き物なのだ。 オメガはこの社会で優遇されている。 アルファによって。 アルファは支配者だから。 ベータ達とは全く違う。 アルファの子供を産むオメガとベータよりも、アルファはベータとは遥かに違う種だった。 ベータ達はアルファに支配されていることを自覚していた。 そして、納得している。 優秀なのだ仕方ない。 そして何より。 アルファ達はベータの中からも生まれることがあったとしても。 恐ろしい存在だった。 例えそのアルファが自分の親兄弟姉妹息子娘だとしても、だ。 いつからか現れた存在、アルファとオメガ。 支配するアルファとその子供を産むオメガ。 ベータ達には。 彼らは本能的な畏れを抱く生き物だった。 同じではない。 ないのだ。

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