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 想太と出会ったのは、大学一年生の時だ。中国語の授業で一緒だったのだ。二回目の授業の時に、うっかり家に教材を置いてきてしまい、「教科書見せてくれない?」と俺から話しかけたのがきっかけだ。  想太がなんの手も加えていなさそうな黒髪で、教室の隅で一人静かに窓の外を眺めていたから、話しかけやすかったのもある。俺は「髪の毛を脱色して、大学デビューしました!」みたいなチャラチャラした人間が苦手なのだ。想太は、「なんで」と問うことも、文句を言うこともせずに、黙って俺の方に教科書を広げてくれた。とても優しい人なのだなと思った。  毎週授業で顔を合わせるので、少しずついろいろなことを話すようになった。また、中国語が二限で、授業後は昼休みになることから、学食に行き、昼食をとりながら話すこともあった。想太が浪人しており、俺よりも一歳上だということを知った。  想太と向き合って食事をしているうちに気づいたことがある。それは、彼がイケメンだということだ。前髪は眉よりも下だし、横の髪の毛は耳を隠しているから、ともすれば陰気に見えてしまいそうなものだが、想太の場合は小顔効果となっている。唇は引き結ばれているし、伏し目がちだが、たまに向けられる目が憂いを帯びていて儚げだとかで、なぜか評判が良かった。  俺も、ラーメンを食べる前に髪の毛を耳にかけた想太を見て、不覚にもドキッとしてしまったことがある。想太と一緒にいる時は、女子の視線を頻繁に感じた。そちらに顔を向けてみても絶対に目は合わない。なぜなら、百パーセント俺ではなく想太の方を見ているからだ。想太は慣れているのか、一切それには反応しなかった。俺に視線が注がれているのなら、目を合わせてウィンクまでつけてあげるのに。悲しいかな、俺にはそんな機会が一向に訪れない。 * 「明日、翔吾の誕生日だよね。オレが酒を教えてやろうか?」  大学二年生になった四月、学食で想太がからかい半分にそんな提案をしてきた。 「酒、おごってくれるなら」  俺もその軽口に便乗する。 「いいよ。おごってあげる。そのかわり、店だと高くつくから、翔吾の家でもいい?」 「もちろん。片付けとくよ」 「よかった。いろいろなお酒、持ってくね」  想太が歯を見せてニッと笑ったら、近くにいた女子二人組が悲鳴をあげた。 「想太くんって笑うんだ……。笑った顔もかっこいい……」  想太はそんな声など聞こえないかのように、俺に笑顔を向け続けていた。

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