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「こんばんはー」
翌日の夜、大きなビニール袋二つを抱えた想太がやってきた。
想太が買ってきてくれたのは、缶ビールと缶チューハイ三本ずつ、紙パックの梅酒、日本酒の二合瓶。それに加えてさきいか、ポテトチップスなどの乾き物だった。
「すごい量」
俺が呟くと、想太が笑った。
「翔吾が何が好きか分かんないから、いろいろ買ってきちゃった」
部屋の中心にあるテーブルのそばにあぐらをかきながら、缶ビールを一本差し出してくる。受け取って、プルタブを開ければ、プシュッと空気が抜ける音がした。
「いつもは発泡酒なんだけど、今日は翔吾の誕生日だから特別。乾杯」
缶どうしをごちんと合わせてから口に運ぶ。缶を傾けて入ってきた液体は苦くてしゅわしゅわして、全然おいしくはなかった。
「あは、翔吾すごい顔」
想太が俺を指差して目を細めた。唇は弧を描いている。
「想太って、俺と一緒にいる時はよく笑うよな?」
「どうしたの、急に」
「昨日、学食にいた女子たちが、想太の笑顔を見た瞬間、びっくりしてたからさ」
「んー。翔吾と一緒にいると楽しいからかな」
「そうなんだ」
想太がにこりと笑う。なぜか、俺の心臓がどきりと鳴った。
何を喋ったらいいか急に分からなくなって、しばらく無言でそれぞれ酒を飲んだ。想太は自分のビールと、俺の飲みかけのビールを既に飲み干して、日本酒に手をつけていた(俺があまりにもまずそうにビールを飲むので、「もったいない」と取り上げられてしまったのだ)。俺は、チューハイを半分ほど飲んだら、ふわふわと気持ちが良くなってきた。もしかしたらとても酒に弱いのかもしれない。
その時、窓に何か当たる音がして、二人でそちらに顔を向ける。カーテンを少しだけ開けてみれば、雨粒がぽつぽつと窓ガラスに当たってはじけていた。徐々に雨量が増え、ざあっという音に変わる。窓ガラスを伝う雨も、滝のようになっていた。
「最初に雨を涙にたとえた人って誰なんだろうね」
想太がぽつりと呟いた。
「さあね」
「今、オレの代わりに泣いてくれてんのかなって、思っちゃった」
想太の目が俺に向けられた。「憂いを帯びた儚げな目」ってこのことか。俺は思わず目を背けた。
「どうしたんだよ、急に。何かあるんだったらなんでも聞くぜ」
「オレ、女の子にモテるじゃん」
「は? 自慢かよ」
「そうじゃない。ちゃんと最後まで聞いて。女の子にモテたって意味がないんだよ……。オレ、女の子を好きになれないんだ」
「……ゲイってこと?」
「そうだよ。『せっかくモテるのにもったいない』。何回言われたか分からない。でも、オレは女の子を好きになれない欠陥品なんだ。オレは普通じゃない。そんな自分がたまらなく嫌だった」
「欠陥品なんかじゃ――」
「ありがとう。オレ、翔吾のそういうところを好きになったんだよ」
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