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「じゃあ恋人になる」
「正気?」
想太が勢いよく俺に顔を向けてきた。
「正気。想太を失うくらいなら恋人になりたい。俺、結構お前のこと好きだし。キスもいけたし、なんとかなると思う」
「キスねぇ」
想太が目を細めた。俺を非難するというよりは、何かを考えている顔つきだった。
「なんだよ」
「翔吾、オレの恋人になるって言ったよね?」
「ああ」
「一回試してみようか」
「試す? 何を――」
想太が目をつむって近づいてきた。唇が押し当てられる。舌が俺の口の中を犯していく。
想太はやたらキスがうまかった。腰が抜けて立っていられなくなる。俺の手から傘が落ちた。想太は俺の腰に手を当てるとそのままかがみ込んだ。傘の下に潜るようにしてキスを続けられる。酸素が薄い。頭がぼんやりしてくる。
「ん……はっ」
唇が離れた瞬間に、がばっと空気を吸い込んだ。
「やば、その顔エロすぎ」
想太が笑った。痛々しい笑顔じゃなくて、俺に告白してくる前と同じ、自然な笑顔だった。俺は肩で息をしながら問いかける。
「そうた、おれ、今、どんな顔してんの?」
「オレのこと大好きって顔」
ふふ。想太が微笑む。
「冗談、やめ――」
言葉の途中で、口を唇でふさがれた。
「ごめん、やめたくない」
想太とずっと目が合っている。ああ、女の子と想太の目が合わなかったのはこのせいか、と思う。想太はいつも、俺だけを見てくれていたのだ。
「お前がオレのこと、恋愛対象として見ていないのは分かってる。でも今は、この雨がやむまでは、この時間に浸らせてほしい」
俺はこくんと頷いた。
――雨がやんでからも、ずっと、想太に求められたら幸せだろうな。
頭がじんじんする。
雨が強くなる。傘に当たる雨の音が激しくなった。耳の中が雨音でいっぱいになる。そんな中、想太の声だけがクリアに聞こえた。
「翔吾、好きだ」
力強く抱きしめられる。雨音に包まれる傘の中で、俺の体には想太の愛が注がれていた。
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