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第1話
ー プロローグー
静かに奏でるヴァイオリンの音色が会場に響き渡るとスポットライトが二人を探しだし、披露宴は今まさにクライマックスを迎えようとしていた。
キラキラと眩しい光に包まれた二人はどちらも純白の衣装を身に纏ってやや緊張の面持ちだ。
今日は大安吉日。
相葉薫(あいばかおる)は新郎新婦がよく見える友人席でこの神聖な儀式を息を詰めて見ていた。
やがて色とりどりのバラの花がこれでもかと飾られた雛壇にライトが集まって司会進行役が音楽と張り合うように一段と声の抑揚を高めていくと二人は揃って立ち上がり、見つめあって互いの身体に腕を回した。
『…まるで、映画の主人公だ…』
両家両親は感極まってハンカチどころかタオルで涙を拭きながらその様子を見守っている。
…そして周囲からの歓声が大きくなっていくと…新郎新婦は大勢の招待客の前で誓のキスをした…。
『…こんなお決まりの演出をみせつけられるなんてさ…。ああ…そうだよな、大手を振って誰彼に幸せをアピールする日だから…。…でも…俺はそんな親友の姿をわざわざ見に来たんだ…』
薫は拷問のようだと思いながら、一ミリも感動していない目でそれを見続けた。
新郎の家族席からずっと薫に熱い視線を送っている人物がいることも知らずに。
『…いつまでキスしてんだか…』
いささかムッとしながらも、新郎新婦席から至近距離にいる薫は周囲に合わせて友人席から祝福の拍手を贈らざるを得ない。
…親友の幸せを願って… … … … …いや、違う。本当は違うのだ。
その証拠に心の中ではこんな事を叫んでいた。
『… 幸せな結婚生活を…なんて、思うかーーーーー!!』
『…バカヤローー!!』
『… …』
披露宴もたけなわ、薫は人知れず心の中でそう絶叫していた。
場所が変わっても先程までの煌びやかさはちっとも衰えず、薫はシャンデリアの明かりの下で強か酒を飲んでいた。
「坂巻、注げ」
「ちょっと待てよ薫、いくら何でも飲みすぎてるぞ」
「い~んだ。祝いの席なんだ。飲まなきゃやってられっか」
「発言が祝ってねぇよ」
そう言いつつも坂巻旬(さかまきしゅん)は苦笑いを浮かべつつ薫のグラスにワインを注いだ。
坂巻旬も結婚式の参列者だ。
薫と同じような黒い慶事用のスーツに白いネクタイを嵌めている。
『…あ~あ、つまんねぇ。まぁ周りの連中からしたら俺がどう思っていようがそんなのどうでもいいんだろうな…』
と薫は複雑な胸中を誰にも話せずワインを喉に流し込んだ。
もちろん薫の世話を焼いている坂巻は全てを分かっている。
どれだけ人がいいのか、彼は知っていても黙って薫と共にいて、尚且つ進んで世話を焼いているのだ。
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