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第2話
「あ~あそんなに煽っちゃって。明日は立ち上がれないぞ?」
「いいんだよ。仕事は休みだし」
「まあ、そうだな。春休みだしな」
そう言いつつ坂巻は薫の胃を少しでも労わってやろうと目の前に生ハムやらチーズやらクラッカーを並べた。
恋人とラブラブな坂巻は自分とは比べ物にならないほど人間が出来ている、…薫は常日頃からこの友人に対してそう思っていた。
それは見事なまでに振られて見るも無惨に酔っ払った薫の面倒も嫌がらずに引き受けるほど。
だが坂巻は凄くいい人だとか、貧乏くじを引いて自分の面倒を見ているとか…そんなの今の薫にはどうでもよかった。
もともと他人にどう思われようが気にしない性格。
…今日の主役…佐野翔馬(さのしょうま)を除いて…。
酒を煽りながらせめてもの良心で薫は口には出さずに心の中で不満をぶちまけ続けた。
『…あ~ムカつく。何であんな女に翔馬を盗られなきゃなんねーんだ。俺の方がアイツの事を百万倍理解してるし付き合いだってもう二十年越えなのに…チクショウ…』
ほんのちょっとだけ心の隅では早く別れればいいとか思ってしまっても薫が願うのは今日晴れて式を挙げた翔馬の幸せだけだ。
こんな状態で文句ばかり言っていても、それだけは譲れない…。
典型的な惚れた弱みだった。
幸せが充満した場所から早く離れたいのに結婚式の二次会は式場すぐ隣のレストランを借し切って行われており…坂巻に誘導され逃げることも出来ずに薫は会場の一番奥、壁際のテーブルに陣取って坂巻に注がせた酒を浴びるように飲んでいたのだ。
「くっそ、美味いワインだな」
「翔馬はお前の好み、知り尽くしてるからな」
「フン!知るか!」
薫は白いテーブルクロスにまだワインが残るグラスを叩きつけて坂巻を睨みつける。
「あ、割れるし汚れるだろ!」
幸いこのテーブルには薫たちの他は誰もいない。こんな酔っ払いと同じテーブルに着く物好きなんて薫の世話役となってしまった坂巻くらいだ。
「ホテルの高いグラスだ。割れないしテーブルクロスを汚すほど俺はグダグダに酔っちゃいねえ」
一応反論の一つでも、と坂巻に向かって薫は吠えた。
勢いからワインをグッと喉の奥に流し込み、アルコールで火照った体の熱を逃がそうとネクタイに手をかけた。
だがグイグイひっぱってもなかなか緩まない。
締め慣れない慶事用のネクタイが硬くて息苦しくて薫はワイシャツごと掴んでと乱暴に引っ張った。
「薫サン…?あ~荒れてる」
すぐ後ろから飲んだくれていても脳内に響く甘い声。
…この声…
「碧羽(あおば)聞いてくれよ。薫が酷ぇんだよ…」
坂巻が声の主に薫の醜態を告げ口する。
「弟かよ…」
わざわざ振り向いたのに…そこにいたのは声が同じだけで薫が待ち望む男では無かった。
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