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第3話
…何だよ…翔馬の弟の碧羽か。
期待してソンした…。
翔馬と碧羽、男兄弟のせいか歳が離れているのに背格好も声も顔も全てが似てる。
碧羽が動く度に香る体臭まで。
『…ん?…コイツ今日はあいつと同じフレグランスを付けてんのか…』
フレグランスと体臭とが混ざった匂いまで…似過ぎていた。
『紛らわしい。…俺はな、何十年って長い年月拗らせてンだ。匂いで翔馬が判別出来る位にな…』
だがそんな薫でも間違えるほどに今日のこの弟の匂いは翔馬にそっくりだった。
正直、こんな日は別人でもいいから翔馬とそっくりなこの匂いを自分の精神衛生の為にいつまでも嗅いでいたい、と薫は思ったが口には出さない。
そんな変態じみた願望を誰かに知られるのも許せない。
「薫サン飲みすぎ。お酒そんなに強くないでしょ?もう止めとこうよ。はい、お水」
グラスを碧羽に攫われ、挙句に小言を言われてさすがに薫はムッとした。
「んだよ…高校生の分際で社会人に説教か?」
「あるよ。だって… … …」
『…レストランの一番奥のテーブルで人様の迷惑にならないように気を使って飲んでる俺に文句かよ…』
「… …だから、ね、聞いてる?」碧羽が薫に向かって何かいっているが、当の薫は胸中で碧羽に文句を語っているせいでまったく聞いていなかった。
グラスを取り上げられた薫は仕方なく碧羽が寄越した水を口に含んだ。
『…翔馬、ずっと好きだった。小学校に入学したその日から二十年 …ずっと…。それなのにどこの馬の骨とも分からない女と結婚式なんか挙げてんじゃねぇよ!』
「チクショウ…」
視界が涙でぼやけ、薫は目を閉じた。
沈んでいた意識が途切れ途切れに覚醒するのは抱えられながら強制的に歩かされていたからだろう。
…と言うより、まどろみの中、なすがまま引き摺られていたというのが多分正しい。
歩みが止まり、扉の開く気配がするとどこか一室に連れ込まれたようで、よいしょ、という声と共に重力に抗いきれなかった体が柔らかで心地よい物体に受け止められた。
『…キモチイ~…』
それは薫が切に求めていたもの。
「…大丈夫か?水はここに置いとくから」
「はい、ここまで来れば何とでもなります」
「俺は隣の部屋だから、じゃあ後は…に…まかせ…」
半ば眠り込んでいた薫はすぐ近くでされている会話すらろくに耳に入っていなかった。
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