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第2話 発端 其の一 ★

 水の魔妖(まよう)の、妖の気配が漂っていた。  ただそこに存在するだけで、森の中にある川沿いを歩いているかのような、澄んだ湿り気ある空気が広がる。  側にあれば、日々の喧噪を忘れてゆったりと癒され、落ち着いてしまう。そんな水の魔妖が片膝を折り、(こうべ)を垂れていた。  それは敬意の証だ。 「遠路遙々、よくいらっしゃいました。金比羅(こんぴら)殿」  耳心地の良い声が、響く。  金比羅と呼ばれた水の魔妖が、頭を上げると重さを感じさせない動作で、すっと立ち上がった。  腰の辺りまで真っ直ぐに綺麗に伸ばされた、薄青色の髪が動きに合わせてさらりと揺れる。 「急な請謁(せいえつ)に応じていただき、感謝致します。(かのと)様」  その言葉に叶と呼ばれた者が、まるで面白いものを見つけた子供のように、にぃと笑った。 「面白いことになっているようですね」  どこから取り出したのか、叶は白翼(はくよく)の付いた扇で自身を扇ぐ。  そして用意されている長椅子に、ゆったりと横になった。  身体に纏わり付くかのような、長く真っ直ぐな銀糸の髪が長椅子に広がる。それを特に気に留める様子もなく、彼は長椅子の手すりに片肘をついた。  金比羅は言葉を返すことなく、ただ無言のまま叶の側に寄り、再び今度は両膝を折る。 「(ぬえ)、ですか。元々天に住まう魔妖が、何故降りてきたのか」  気になりますねぇ、と言いながら叶は扇を広げ、口元を隠す。  それはまさに授ける為の合図だ。   金比羅は深々と一礼をしてから、叶の腰元の帯を軽く緩めた。  現れたのは反りの強い剛直だ。  その鈴口からは、すでに一筋のとろりとした蜜が流れ落ちている。強い妖力を含む精は、魔妖にとって極上の馳走そのものだ。  知らず知らずの内に喉を鳴らす金比羅の髪を、叶は手櫛で軽く梳く。  まさにそれは施しであり、奉仕であった。  零れ落ちる蜜の一滴すら逃さないとばかりに、金比羅が長い舌を使って叶の雄を舐め取る。はち切れんばかりに膨張した亀頭を唇を使って扱きながら、その溢れ出る先走りを、卑猥な水音を立てながら味わい尽くす。やがて舌全体を雄に這わせ、唇をすぼめながら顔を幾度か上下させれば、金比羅の咥内に濃厚な妖力の塊が広がった。  その力の奔流に圧倒されながらも、嬉々としてそれを嚥下する。途端に臓腑が熱くなり、身体全体に『力』が漲る。  竿の中に残る僅かな白濁すらも欲しいのだとばかりに吸い付き、熱い息を剛直に吹き付けてから金比羅が雄から唇を離す。  精を吐き出したというのに、叶は息のひとつ、表情のひとつを取っても、決して乱してはいなかった。  ただ面白そうに、くすくすと笑うのみ。 叶の雄はまだ猛々しい。  濃厚な妖力の香りを堪能しながらも、金比羅は指で輪を作り、下から上へと竿を擦り上げて奉仕する。  その施しは気まぐれだ。  『叶』という全ての魔妖の王であり、また神の化身ともいうべき彼の気まぐれさは、決して今に始まったことではない。  手淫に緩急を付けながら、金比羅は小さく嘆息して、呼吸を整える。 「その降りてきた場所が国境に近い、我が霊鷲山(りょうじゅせん)国と、この麗国とを繋ぐ街道であり、今もまるで何かを探すかのように、付近を徘徊しているのです」

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