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第4話 発端 其の三

「……招集命令?」 「是。主君館へ上がれとの御下知が、(かのと)様より直々に」  副官の言葉に、怪訝そうな表情を浮かべるのは、まだその顔に幼さの残る少年だった。  少年は何かを思い返すような仕草をしていたが、やがてこてと首を傾げる。  白の布着に、紅紐で胸と長い袖部分に縫い取りの装飾を施してある、縛魔服と呼ばれる正装を着込んだ少年の、高く結い上げ背に落ちる春の宵の春花のような藤紫の髪が、動きに合わせてさらりと揺れた。 「そうなんだ。特に何も聞いてなかったんだけどなぁ」 「こちらも大司徒 (だいしと)からは何も。急を要する御下知だったのでしょう」  正直言って嫌な予感しかしない。  少年は空笑いをしながら、楼台の桟枠(さんわく)から外を見る。  主君館へと続く渡廊(わたろう)が、そこにはあった。  麗国中枢楼閣は、城主の政務室である主君館と、大僕(だいぼく)政務室、六つある国の機関、六司(りくし)の政務室と、その大司官、司官の私室ある場所だ。  凹の形をしている楼閣は全六層にもなる。  最上階にあるここ陰陽屏は、国の安定と安寧を願い、祈祷や占術、季節ごとの祀りを行う者達の政務室だ。  彼らは一般的に縛魔師(ばくまし)と呼ばれている。国での役職名を大司徒(だいしと)、その補佐を司徒(しと)といった。  司徒である少年にとって主君館は、上司である大司徒と共に上がる以外は、特に無縁の場所だった。  特に招集に関しては、まずは大司徒に話がいき、そして少年に下るようになっていた為、余程『急を要する下知』だったのだろう。  魔妖関連か、あるいは……。  息を付く少年に、副官がくすりと笑う。 「そのような大きな溜息をつかれますと、幸せが逃げますよ。香彩(かさい)様」 「だって……嫌な予感しかしないじゃない?」  少し困ったような顔をして、香彩(かさい)と呼ばれた少年は、副官を見上げてそう言ったのだ。

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