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4.長兄からの贈り物

 そんなことをぼんやりと考えながら僕は気付いたら居眠りをしていたようで、ノックの音で目が覚めた。ドアを開けて中に入ってきたのは長兄のアランだった。 「ルネ? 寝ていたのか」  僕はベッドに寝転がっていたので慌てて身体を起こした。 「アラン兄様……? まだパーティーの最中では?」  部屋にいてもかすかに聞こえる客達の楽しげな声はまだまだ衰える気配はなかった。 「ヘクターの脂ぎった顔をずっと見ていたら目が潰れそうでね。まるで世継ぎにでもなったみたいに悦に入った顔をしていて笑えるよ。あまりに馬鹿馬鹿しくて抜けてきたのさ」 「そうだったの……」 「お前より公位継承順位が上になったのがよほど嬉しかったようだ。ふん、あいつめ、勉強も剣術もルネより全然出来ない癖に。本当にあいつがアルファでお前がオメガなんて信じられないよ」  兄はベッドに座る僕の隣に腰掛けた。どうやら僕を慰めに来てくれたようだ。 「お兄様……」 「ルネ、遅くなったけど誕生日と成人おめでとう」  兄はポケットから小さな箱を取り出した。綺麗な青いリボンが掛けてある。 「え、僕に?」  まさかこの状況でプレゼントを貰えるとは思っていなかった。もう僕の誕生日なんて皆忘れてしまったんだとばかり思っていたのに。  胸がじんわりと温かくなる。 「ありがとうアラン兄様! 開けてもいい?」 「もちろん」  僕は嬉しさに震える指で包みを開けた。箱の中にはガラス製の小さな容器が入っていた。 (何だろう。宝石箱?) 「さあ、開けて」  兄に促されてガラスの容器の蓋を開ける。中には乳白色のクリームのような物が入っていた。 「何かの薬……? それとも練り香水ですか?」  顔を近づけて匂いを嗅いでみるとほのかに甘い香りがした。 「大人になったルネに必要なものだよ」 「え? 何なの、お兄様」 「お前には幼い頃から勉強も剣術もダンスもなんでも俺が教えてきたね」 「はい」  兄は僕の髪の毛にそっと触れた。 「お前がオメガとして今後困らないように俺が大事なことを教えてあげるよ」 「大事なことって……?」 (何? 兄様の様子がなんだかいつもと違う……) 「どうやったらオメガの身体が気持ち良くなれるかということさ」  兄は僕の胸を優しく押してベッドに倒した。急に仰向けにさせられて困惑する。 (え? 気持ちよくって――) 「お前が将来結婚相手とする時に困らないように、兄としてきちんと教えてあげよう」  兄は僕の手から容器を奪った。 「え……あ、待っ……」  そして僕の着ていたシャツのボタンを外していく。 (うそ。どうしてお兄様がこんなことを――?)  心臓が早鐘を打ち、恐怖とショックで身体が強張り動かなくなってしまった。彼の瞳は本来僕と同じ空のような青い色だが、今は爛々と光っていて恐ろしかった。 (お兄様は僕にいやらしいことをしようとしてるんだ……) 「や、やめて……アラン兄様お願い……やだ!」 「しーっ。静かに。まぁいいか。叫んだってどうせ皆酒とダンスに夢中で気付きやしないさ」 「待って、嫌です! こんなの酷い……」 「ルネ。酷いなんて心外だな。お前のためを思ってしているんだ。知らない男にされるより、俺が一番最初にお前を愛してあげるんだ。ありがたいと思えよ」 「や……な……」 (何言ってるの……?)  兄の目は欲望に燃えて上品な口元には薄ら笑いが浮かんでいる。 (怖い……いつも優しかった兄様がどうして――)  服のボタンはすっかり外されてしまい、僕の胸元があらわになると兄はそこをゆっくりと撫でた。 「ああ……本当に素晴らしいきめの細かさだね、ルネ。お前の肌は……」  そして容器に入ったクリームのような物を指ですくい取ると僕の胸に塗り始めた。 「ひっ! 嫌です、なんなんですそれは?」 「こうやって塗り込めてやると……」  兄は両手で両方の突起にクリームを塗りながらそこを摘んだり優しく捻ったりしてくる。すると、気持ち悪いはずなのにピリピリとした痺れるような感覚が背筋と下腹部に走った。 「んっ、うぅ……」 「ほら、どうだ。良くなってきたか?」  クリームを塗った部分がじんじんと熱を持ち、熱いような痒いような感覚に僕は身体をくねらせた。 「いや……何これ。お兄様、痒いです……いやぁ……」  自分で掻きむしってしまいたいくらいになっていたけど、兄が触れるか触れないかのタッチで先端を指でくすぐってきて余計にモジモジしてしまう。それが傍で見る者にとってはまるで快感に悶えているようにしか見えないとは自分で気づくわけもなかった。 「いつも澄ましているお前の乱れる顔が見てみたいとずっと思っていた。まさか本当に叶うとはね」 「あっあ……やぁ……んっ!」  くりくりと先端を強めに捩られ、鼻にかかった甘ったるい声が出てしまう。 「だめっ……やっ、ああっ」 (恥ずかしい……恥ずかしい……! お願いもうやめて)  そして突然兄が乳首に口を付けて吸い始めた。ジュッとわざと音を立てるようにして吸われ、僕は強すぎる快感にのけぞった。 「ああっ!」 「ふふ、軽くイけたみたいだね、上手だよルネ」  すると兄は今度は僕の下着を脱がせ、後ろの穴に指を這わせた。 「いやっ! 何するの、やめてお兄様!」  そんなところは他人に見られたことも無かったし、ましてや触られたことなど一度も無い。 「そんなことを言ってもここはもう濡れているよ」 「う、うそだ……」  兄は穴の周りを柔らかく揉むように指でなぞり、そこに滲み出た粘液を指ですくって僕の目の前に掲げた。 「ほら……いやらしい愛液がこんなに……」 「ひっ……!」  テラテラと光る指先を見て僕は自分の身体の浅ましさに戦慄した。これまで自分は性欲がそこまで強いとは思っていなかった。許嫁のヴィクトリーヌとは手を握ったことすら無いのだ。 (なのに……胸を触られただけでこんな……) 「雄を迎え入れたくて仕方がないんだ」  そう言って兄は濡れた指を舐めた。その姿にゾッとする。 「いやだ……こんなのおかしいよ……どうして……?」 「お前は悪くない。これはオメガの宿命だよ。さぁ、俺がちゃんと最後まで教えてあげるから安心して」 「うぅ……いや……嫌だよお兄様……」 「しーっ、泣いてはいけないよルネ。お前はもう成人したんだろう? ほら、顔を上げて」  兄は僕の顎を指先で持ち上げた。 「快感に泣くお前の顔を一番に見られて嬉しいよ。美しいルネ……本当に可愛い弟だ」  唇と唇が重なった。苦しくて鼻で息を吸い込むと、なんとも言えない甘い香りがする。アルファのフェロモンだ。 (狂ってる……こんなのどうかしてる!) 「お兄様はオメガでも僕が弟だって言ったのに……こんなことするなんて!」 「お前がそんな良い香りと美貌で男を誘うからいけないのさ。罪深いのはお前の方だ、ルネ。さぁ中に入ろう」 「あっ!?」  兄はガラス容器から更にクリームをすくい取り、ゆっくりと指を僕の中に埋め込んだ。そこは十分に濡れそぼっていて、ぬるぬると兄の長い指を飲み込んだ。 「あっ……はっ」  そして兄はグチュグチュと音を立てながら指で僕の中を暴き始めた。 「んんっ……いやっ!」 「気持ちいいか?」  そんなことを聞かれて僕は恥ずかしくてたまらず首を振る。しかしクリームのせいで内側がじりじりと熱を帯び、もっと強い刺激を与えてほしくて堪らなくなっていた。 (感じたくない……なのに、どうしてこんなにここが疼くの? 気持ちいい、嫌なのに気持ちいい……)  兄は徐々に指を増やし、最後は三本同時に入れてしまった。 「これだけ広げれば大丈夫だろう」 「あ……ぁ……」  僕は喘ぎすぎて喉がカラカラだった。 「挿れるよ。ルネ……お前の初めての相手はこの俺、アランだ。覚えておけ」 (嫌だ……嫌だ……お願いやめて!) 「許して……こんなことしないでお兄様……」  僕の涙ながらの懇願も虚しく、兄は僕の足を開かせ怒張した物でグイグイと僕の中に押し入ってきた。 「ぁ……ぐっ、んんっ! 苦しい……お兄様お願いやめてぇ……」 「ああ、なんて締まりの良さだ。中はまるで俺を誘い込むように絡み付いて来るよ。ルネ、上手に飲み込めた……見てごらん」  おそるおそるその部分を見ると兄の下半身が僕のそこにピッタリとくっついていた。最後まで入れてしまったのだ。 (なんてことを……! 兄弟でこんなこと許されるわけがないのに)  その後は兄に好きなように抱かれて僕はあられもない声を上げ続けた。 「あっ、ああっ、だめっだめっ! いや……やめて……」 「可愛いルネ。愛してる……愛してる」  兄の囁き声はあくまでも優しく、僕に勉学や剣術を教えてくれるときのような調子だ。パーティー会場から漏れ聞こえる音を遠くに聞きながら兄の下で口付けを受ける。  僕の身体は無理やり開かれたにも関わらずアルファの象徴を簡単に飲み込み、すぐに快楽を覚え込まされてしまった。

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