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5.終わらない悪夢(1)

 翌朝、僕の異変に最初に気付いたのは侍女のペネロープだった。  彼女は部屋のカーテンを開けて僕に笑顔を向ける。 「おはようございます。ルネ様? あら、今日はお寝坊さんですのね。昨日のパーティーでお疲れになられまし……え――?」  僕は兄に陵辱され、そのまま力尽きて寝てしまったため衣服は何も身につけていなかった。さらに肌の上には兄が戯れに付けた花弁のようなキスの痕が無数に残されていたのだ。首回りも胸元も、背中にも。 「あ……なんてこと……ルネ様! 大丈夫ですか!? 一体何が……!」  ペネロープは慌てて僕の全身を検あらためた。幸い怪我をしているところはなく、出血もしていないようだった。しかしそれでも、グッタリした僕と情事の痕跡が散る肌の異様さに彼女は真っ青になっていた。  それはそうだ。これまで婚約者とキスすらしたことが無かった身だ。僕に経験が無いことは一番近くにいるペネロープは良く知っている。 「まさか侵入者が? 誰か呼ばないと――!」 「やめて、ペネロープ。大丈夫だから……」 「で、ですがまだこの城内に危険人物が」 「違うんだ、これは……その……相手はわかってるんだ」 「え?」 「つまり……兄なんだ」 「ええっ!? ま、まさかそんな……」  彼女は両手を口に当ててこれ以上無いくらい目を見開いている。 「アラン兄様が昨夜来た。だけどこのことは絶対誰にも言わないで。お願いペネロープ」 「それは勿論……誰にも言えませんが……」 「お母様に知られたら殺されてしまう。だからお願い」 「かしこまりました。ですが……まずは身体を拭きませんと!」  侍女は唐突に自分の職務を思い出して動き始めた。 「ああ。面倒だけどお湯に浸かりたい。湯を張ってくれないかな」 「はい、ただいま!」  ペネロープが支度をしてくれて僕は温かい湯に浸かった。普段はこんな贅沢な事はしないのだが、全身気持ちが悪くて湯の中に汚いものを全部溶かして流してしまいたかった。  バスタブに横たわる僕の頭の方に立ち、ペネロープは髪の毛を濡らして梳いてくれる。精液がこびりついたまま固まって、髪の毛が絡まっていたのだ。 「酷い……綺麗なお(ぐし)がこんな……悔しゅうございます」  彼女は櫛を通しながら泣いていた。 「うん……」 (ごめんねペネロープ。僕がアルファだったらこんな思いさせずに済んだのに……) 「すみません、一番お辛いのはルネ様ですのに私ったら……。髪の毛はこれでようございます。私はあちらへ行ってお部屋を整えさせますから湯浴みが終わりましたらお声掛け下さい」  彼女は涙を拭ってバスルームを出て行った。  一人になって天井を見つめる。 (オメガとわかった以上いずれ誰かとこうなるのは避けられぬ事だったのだ。その相手が、たまたま兄だっただけのこと。彼は彼なりに弟を思って……あのような、あのような……) 「うぅ……」  涙がこめかみを伝う。 (彼を尊敬していたし、兄弟として愛していたのに。僕がオメガとわかった途端に彼はただの獣物になってしまった。今まで優しかったのは偽りだったの?)  後孔に指を入れ広げるようにして少しお腹に力を入れると湯の中にドロリと液体が流れ出た。僕がまだ発情期を迎えていないのを良いことに、彼は欲望を中に注ぎ込んだのだ。羞恥と怒りで肩が震える。 (こんな屈辱がこの世にあるのか。いや……忘れよう。犬に噛まれたと思って忘れるんだ)  しかし、それは無理だとその後思い知らされることになった。  数日後にまた兄が僕の寝室に現れたのだ。彼は一度で終わらせる気はなかった。

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