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6.終わらない悪夢(2)

 それ以来、僕は毎晩のように兄がいつ来るのかわからず怯えて過ごすことになった。彼が来るかもしれないとベッドの中で神経を張り詰めて、来なかった日は緊張がピークに達し疲労で気を失うように眠ってしまう。  そして彼が来た日は、最初の時のようにプレゼントされた媚薬を敏感な部分に塗りつけられ、全身を舐められ啼かされる。そして最後は僕に挿れて欲しいと言わせる鬼畜ぶりだ。優しそうな顔をしているが彼の内面はその実冷酷で淫蕩だった。 「ルネ、俺の上に乗って自分で腰を振るんだ」 「な……っ、そんなことできません」 「母上にこのことを言っても良いのか? あの女はなんと言ってヒステリーを起こすかな?」 「やめて! だめ、言わないで!」 「じゃあやるんだ」  僕は兄の言う通り、彼の上に乗って彼の物の上に腰を落とした。 「んん……ぅ……」  全て入ると兄は満足そうな顔で先を促す。 「さあ、腰を振って。俺がイくまで止めるなよ」  恥ずかしくて死にそうだったが、兄は一度言い出したら諦めることがないのはこれまで剣術や勉強を教わってきてよく知っていた。僕はゆっくりと腰を前後させる。しかしこんなことはしたことがないので上手くいかなかった。 「ふん、そんなんじゃいつまで経っても終わらないぞ? ほら、こうするんだよ」  そう言って兄が下から腰を突き上げた。 「ひっ!」  すると中が擦れてゾクゾクとした快感が背筋を這い上がった。 (気持ちいい……)  僕は羞恥心を堪えて兄の動きを真似て上下に腰を動かした。それと共に触れ合った部分からぐちゃぐちゃといやらしい音がした。 「いいぞ、その調子だ……」 「あんっん……あっ」  僕は淫らに腰を振りながら喘いだ。 (こんなことして気持ち良くなるなんて……) 「胸も自分でいじるんだ」 「いや、いや……」  僕は頭を振る。しかしそれで許される筈もない。兄は冷たく言う。 「やれ。やらなければ告げ口する」 「あ、わかったから……ぁ、言わないで……」  僕は腰をくねらせながら、両手で自分の胸の先端を刺激し始めた。 (酷い、酷い……僕はどうしてこんな娼婦のような真似を……) 「んっんっ……ふぁっ……」 「いい眺めだ、頑張って偉いぞルネ。そろそろ手伝ってやろう」  下から僕を見上げて薄ら笑いを浮かべていた兄は身体を起こし、座位で僕を下から突き上げた。 「あっ! ああっ……だめ。そんなに激しくしないで……あっ」 「こうされるのが好きなくせに何を言う。恥じらっても無駄だ。お前のその顔は男を喜ばせるだけだ」  彼は僕の唇にキスして舌をねじ込んできた。 「んっ……うう」  口と後孔を同時に犯され、僕はもう考えるのをやめてただ肉体的な快楽に身を任せた。そうでもしなければ精神が保ちそうもなかったから――。 ◇◇◇  数ヶ月もするとこの行為にも慣れて、僕は嫌がったり恥じらったりする事をやめた。反応すればするほど彼を喜ばせることになるとようやく気が付いたのだ。  しかし、兄はそれが面白くなかったらしく最近は寝室から出て行為に及ぶようになった。人が来るかもしれないという恐怖で僕が怯えるのを見るのが楽しいらしい。本当に悪趣味な人だ。  もちろん人目に付くような場所ではないものの、ベランダや廊下の奥まった柱の影などで裸にされると全身に鳥肌が立ち恐ろしくて震えてしまう。 「ああ、お前は怯えた顔も美しい。優しく可愛がってやりたいのにこんな顔をされたらますます酷くしたくなるよ」 「やめて……お兄様、部屋に戻りたい。何でもするからもう許して……」  壁のアルコーブに置かれた異国の壺の横で、立ったまま挿入され揺さぶられている。僕は恐ろしくて、憎い相手であるのにアランの腕に縋り付いてしまう。 「口ではそんな事を言ってもここはこんなに蜜を垂らして悦んでいるじゃないか」  指でぐりぐりと性器の先端をいじられ強すぎる刺激に身を捩る。 「いやだ! はぅっ……んっ」  兄の言う通り僕のそこは先端から先走りを滴らせていた。 「お前は怯えるほど後ろが締まる。心の奥底に、誰かに見られたい願望があるんじゃないのか?」 「やめて……そんなわけない……」  僕の反応が良いので兄は上機嫌だった。恐ろしいことに僕と兄の体の相性は良いようで、気持ちは拒絶しているのに僕の体はアルファ特有の彼の|体臭《フェロモン》を求めているのだった。  彼の汗や精液の香りにはオメガの僕を興奮させる作用があった。それに抗えないことが僕はとても嫌だった。

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