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7.庭園にて

 兄の酔狂は徐々にその度合いを強め、彼はとうとう屋外で行為に及び始めた。僕はその日、庭に連れ出されてつる薔薇の生い茂る中ひっそりと隠れるように建てられた四阿(ガゼボ)で身体をまさぐられていた。  僕の胸元に鼻を近付けて匂いを嗅ぎながら兄が言う。 「ふふ……ここですると薔薇の香りなのかお前の香りなのかわからないな」 「だめ。お兄様これ以上はやめて」  僕はシャツの前をはだけられ、下半身は剥き出しの状態だ。兄の膝の上に向かい合わせで座らされ、指で後ろの穴をいじられている。 「もうここはヒクついて俺のものを欲しがっているようだが?」 「んんっ……。いやです! こんなところで、誰か来たら――」 「ふん。こんな庭のはずれに誰が来るというんだ。挿れて欲しいと正直に言え。言わなければ……」 「あ、だめ! 言うから……。挿れてください……」  僕がもごもごと小声で言うと兄は苛立たしげな声を出した。 「言い方が気に入らないな。もっと可愛くどこに何を欲しいのかお願いしてお前から口付けしろ」 (この人でなし……!) 「アラン兄様、ここに兄様のを挿れて下さい……お願い」  そして言われた通りに兄の形の良い唇に自分の唇を重ねた。すると兄は満足気に微笑んでさらに深く口付けしてきた。 「ん……っ」  舌で歯の裏側まで舐られる。こんないやらしい口付けの仕方があることなど知りたくはなかった。兄は真面目で優しい人だと思っていたのに、一体どこでこんな事を覚えたのだろう。  そうぼんやりと考えていたら兄が僕の脚を持ち上げ濡れた蕾に雄茎を押し込んだ。そこはもうほとんど抵抗無く熱い塊を飲み込んでいく。 「あ……ん」 「ほら、欲しかったものはこれだな?」 「……ちが……う……」  兄は僕の答えには構わず濡れた音を立てて腰を動かし始めた。手入れされた可憐な庭の花に似つかわしくない二人の湿った息遣いが耳障りだった。 「外の方が感じているな。ルネ……可愛いよ。俺をもっと求めてくれ」 「はぁっ、あ……っいや……」 「気持ちいいだろう? 言え。言うんだ」 「あ……っ、気持ち良い……お兄様……」  知らぬ間に自ら腰を揺らして兄に夢中で応えていた。 「あっ……そこ……気持ちいい」  するとその時ガサガサと葉音を立てて木陰から人が現れた。その人物は僕たちの痴態を見て声を上げた。 「お前たち、そこで何しているの!?」  一番見られてはならない人物がそこにいた。継母だ。全身の血の気がザッと引いていく。 「ひっ! お母様……!?」  先程まで快感に眉を寄せていた兄も瞠目している。 (どうしてこんなところに継母が!?) 「この薄汚いオメガめ……城の庭でなんて汚らわしいことを!」  母の金切声が響き、木に止まっていた鳥がバサバサと飛び立つ。 「あ……こ、これは……」  ほとんど裸の状態で兄の上に乗っていては何の申し開きも出来ない。継母を嫌っている兄ですらこの状況に蒼白な顔をしていた。 「アラン、あなた……」  継母が兄を名指しする。何を言われるかと身構えた兄に継母はこう言った。 「ルネに誘われたのね? そうでなければ真面目で優秀なお前がこんな事をするわけがないものねぇ?」  僕は酷い言われように愕然として兄の顔を見た。 (お願い、否定して……)  しかし兄は口元を綻ばせた。 「はい、母上。みっともない所をお見せして申し訳ありません。弟に迫られて――オメガの香りに誘惑されどうしても断れずこのような行為に。大事に至る前に目を覚まさせてもらえて助かりました」  兄は僕を無造作に押しやり地面に突き落とした。 「痛っ」  芝生に転がされて僕ははだけたシャツの前をかき合わせる。そのまま恐ろしくてうつむいた。 「ルネ、お前は何という破廉恥な真似を――。兄弟でこんな事をして許されると思っているの!? どうなるかわかっているわね? こんな事をしでかして、このまま城に居られると思わないことよ」 「すみません。ですが――」 「口答えする気!?」 「いえ、何でもありません……お母様」 (僕は誘ってなんかいないのに……!) 「殿下には私から伝えておくわ」 「あっ……それだけは……!」   継母は踵を返して歩き去った。 (こんなことが父に知れたら僕はもう終わりだ……)  目の前が真っ暗になる。兄は身繕いをして立ち上がると地面に這いつくばったままの僕に手を差し出した。 「はぁ。あの女のキンキン声ときたら頭が痛くなるな。残念だがこれで終わりか。もう少し可愛がってやれると思ったんだがな」  僕がその手を取らずにいると、ため息をついて頭を振り、兄は立ち去った。  僕はその後しばらく呆然として動けなかったが、こんな場所で裸でいるわけにはいかないと気付いてノロノロと立ち上がって服を着た。 (でもなぜこんな庭の奥に継母がわざわざ……? いや、そんなことより本当に僕はもうこの城には居られなくなるんだろうか?)  そのままふらつきながら自室に戻る。 (兄は僕のことをかばいもせずに僕が誘ったと言った……。少しでも兄に慈悲の心があるかもなんて期待したのが馬鹿だった……)

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