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第1話
『ーー知らない人に、名前を教えたら駄目だよ。絶対、だよ。』
祖母が亡くなって5年、今の今まで忘れていた事が不思議なくらい、鮮明に再生される。
幾度としてきた、二人の約束。
――なんで今、思い出すんだ。
「ハァ、ハァ――っく、そ」
茂みの中に倒れこむと、目一杯空気を吸い込む。吐き出したい言葉は山程あるが、荒くなった呼吸を整えるのが最優先だ。
鼻緒ずれした足の甲が脈を打ち、裸足で走ってきた右足は砂利を踏んだ分余計に痛む。
後悔先に立たずーーだが、考えられずにはいられなかった。
ーー戻るんじゃ……なかった。
近所の神社で開かれる夏祭り。至って普通の祭りだが、こんな田舎では夏の一大イベントとなる。無数の屋台からお気に入りを探し、ついつい無駄遣いをしてしまう子供たち。団扇片手に井戸端会議に勤しむ奥様方や、この日ばかりはと酒盛りを始める男衆。 それぞれが夏の終わりを堪能する。
祭りも終盤に差し掛かった時、この祭り独自のものが現れる。そこだけは、普通とは言い難い異様な光景だった。
「お、役者のお出ましだぞ!」
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