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第55話 久しぶりのクリスマス

 子どもの頃、クリスマスって、あのよくクリスマスソングで耳にするシャンシャンっていう、スレイベルの音がずっとしてるみたいに、気持ちも、足取りも軽くなった。  プレゼントもらって、プレゼントあげて。  美味しいご飯とケーキ。  昼間は赤と緑色、それから金色の装飾で街がラッピングされたみたいに華やかになって、夜はそんな街の輪郭を縁取るようにライトが光り輝いて。  ワクワクしたっけ。  大人になってこの仕事についてからは仕事の日って感じだし。なんか忙しなくて仕方がない日になった。  むかーし、営業マンと付き合ってた時、クリスマスイブとクリスマス当日の外回りは本当に最悪だってぼやかれたことがあったな。でも確かに、ホント、クリスマス商戦なんて呼ばれちゃうくらいにはとにかくすごい。  道はどこもかしこも激混みで、カーナビで見る交通状況が表示されるような道は全部真っ赤。見てるだけでゲンナリしてくる。それでも年末の挨拶回りなんて風習があるから仕方がないって。  俺はそんな激混みになるお店で働く身だから「ふーん」なんて思ってたけど。  この仕事好きだからさ。  その二日間はプライベートはとりあえず置いておいて、とにかく気合い入れて仕事してた。  その日は栄養ドリンク飲んで体力ゲージあげてかないとって、してたくらい。  それが大人になってからの俺のクリスマス。 「はぁ……」  そんなクリスマスが今年は土曜がイブで日曜がクリスマスなんだもん。  もうそりゃすごいに決まってるし。  だから、もうヘットヘト。昨日の土曜日も半端じゃなかったけど、本日、クリスマス当日はもう……夜まで大忙しで。  国見さんのお店って小さいし、場所だってマイナーなのに、すっごい人気。そこら辺のデパートとかブランドショップの方がきっともう少しゆっくりできるんじゃない? ってくらい。多分、ちょっと前に取材とかあったんだよね。小さな記事を載せてもらえるんだよ、なんて国見さんは言ってたけど。その効果も絶対にあったよね。 「ふぅ……」  とにかく、そんなクリスマス商戦な日曜日の仕事が終わった。 「ただいまぁ」  いつもだったら、大人になってからの俺のクリスマスは、これで終わり。この仕事に就いた時点でクリスマスを恋人同士で楽しむ日設定にはしなくなった。  けど、今年は。 「今、帰っ…………」  今年は、ちょっと……ワクワクしてた。 「……」  一日遅れで旭輝と過ごすクリスマスを楽しみにしてた。  官僚のお仕事も年末年始は忙しいのかな。だよね。年末ってなんでかなんでも忙しくなるもんね。だから、旭輝も土曜日出勤してたし、俺よりも帰りは遅くて、少し心配だったくらい。 「寝てる」  ソファでごろんって。  そのソファの前には開きっぱなしのノートパソコン。  今日も仕事してたんだ。 「……」  そっと、そーっと近づくと、わずかにだけど寝息が聞こえる。  俺はコートだけそっとそーっと脱いで、棚で仕切られてるだけの旭輝のベッドにお邪魔すると掛け布団の下から毛布だけを取り出して、またそっとそーっと戻って、気がつかれないように細心の注意を払いながらかけてあげた。 「……」  オッケー。  起きてない。  この瞬間に起きちゃうことってけっこうあるからさ。でも、よっぽど疲れてたのか気が付かずに寝てる。  そして、そのままソファのそばに座り込んで。 「……」  その寝顔を眺めてた。  寝てても、すごい……カッコイイ顔。これを見てほろほろに絆されちゃう女の人何十人くらいいたんだろうね。  きっとたくさんいたよね。  きっと、たくさんの女の人がこの寝顔にドキドキしてた。 「……」  まさに、今、俺がそうだし。 「……聡衣?」 「!」  それはまるで、突然、見たこともない綺麗なものを目の間に差し出されたような驚きと高揚感。  旭輝がパッと目を開けて、俺を見つけて、見つめて、パタパタと瞼を瞬かせた。そして――。 「……おかえり」  そして、そう言ってからふわりとふわふわな雪が舞い降りるみたいに、柔らかく、触れたら溶けちゃう雪の粒みたいにキラキラに笑って、俺の後頭部を大きな手で撫でて、そのままキスをした。 「……身体、冷えてる……ぞ」  唇が触れて、そっと離れて。  そして、外から帰ってきたばかりで冷え切ったままの髪をその大きな手で弄って、引き寄せる。 「……」  冷えてるって。 「……ク……ウー…………」  わ、わわ。  何、これ。  冷たいからと引き寄せて、そのまま、キスをすぐにでもきそうなほど近く。すごく近くに、彼の顔があって、彼の寝息が唇に触れてる。 「……」  それは、まるで、たくさん仕事を頑張ったご褒美にと、サプライズでサンタさんがくれたクリスマスプレゼントみたいな、驚きと、甘くて痺れそうな高揚感。  彼を起こしてしまわないようにそっと、その寝顔を鑑賞しながら、つい笑みが溢れる。  久しぶりの、クリスマス、だ。 「……旭輝」  これはクリスマス。  俺は、鈴の根を鳴らして今飛び回っているだろうサンタさんにお礼を告げて、もらったばかりのクリスマスプレゼントのそばにずっといた。  なんかね。待ちに待ったプレゼントに胸が躍って、ニコニコ笑顔が止まらない子どもになったような気分がした。

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